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天文トピックス

●最近話題の天文話 2018年11月

 

○水星探査計画ベピ・コロンボ

 前月10月20日、日欧の水星探査機2機を積載したアリアン5ロケットが打ち上げられ、
国際水星探査計画BepiColomboがようやくスタートした。探査機は2025年末には水星に到達、
日本(JAXA)の水星磁気圏探査機「みお」Mercury Magnetospheric Orbiter(MMO)と
欧州宇宙機関(ESA)の水星表面探査機Mercury Planetary Orbiter(MPO)とを分離、
水星周回軌道上で1〜2年かけ水星の総合的な探査を行う予定になっている。
当初構想では2010年打ち上げという想定だったが、設計変更などで2016年に延期、
その後エンジントラブルなどもあって更に伸び、ようやく今回の運びとなったわけである。
  水星は太陽に最も近く、太陽の強烈な放射や強い重力の影響から探査機の送り出しが難しく、
これまでMariner10(1974〜75年)と、MESSENGER(2011〜15年)による探査が行われただけだった。
今回の探査が、水星にまつわる謎の解明や太陽系生成論検証につながることが期待されている。
なお、プロジェクト名のBepiColomboとは、水星への飛行コースを提案、Mariner10の探査につなげ
また 水星の自転周期(58日)と公転周期(88日)が2:3の共鳴関係にある理由を解明した
イタリアの天体力学者Guiseppe(Bepi) Colomboにちなんでつけられた名前である。

***以下、JAXA、ESAのBepiColomboサイトから抜粋***


○行程
2018年10月20日 打ち上げ/アリアン5ロケット(ESA)
*MPO(ESA)+MMO(JAXA)複合機、電気推進エンジン(SEPM)による航行(ESA)
地球軌道付近を並走するように航行〜
2020年04月13日 地球フライバイ   /金星に向かう   
2020年10月16日 金星フライバイ1回目/先行する金星に追いつき同軌道付近を並走
2021年08月11日 金星フライバイ2回目/水星に向かう
2021年10月02日 水星フライバイ1回目/先行する水星に追いつき同軌道付近を並走
2022年06月23日 水星フライバイ2回目〜(水星約3公転後実行)
2023年01月20日 水星フライバイ3回目〜(水星約4公転後実行)
2024年09月05日 水星フライバイ4回目〜(水星約5公転後実行)
2024年12月02日 水星フライバイ5回目〜(水星約1公転後実行)
2025年01月09日 水星フライバイ6回目〜(水星約半公転後実行)
2025年12月05日 水星到着      〜(水星約4公転弱後)
*水星へ到達後電気推進エンジン(SEPM)分離
MPO化学推進エンジン(ESA)による水星周回軌道に投入/
*MMO予定軌道に到達後、MPO(ESA)とMMO(JAXA)分離
〜MMO軌道は高度400km×12000kmの楕円極軌道〜水星磁気圏観測に適した長楕円極軌道
*MPO軌道へ
〜MPO軌道は高度400km×1500kmの楕円極軌道〜水星地表・構造探査に適した低高度極軌道
2026年〜    探査期間 1年(=4水星年)/1年延長の可能性あり
このフライバイは、惑星の重力を利用して探査機の方向や速度を変える航法で
冒頭のMariner10は、金星フライバイで水星に向かい水星と並走するコースをとった。
Messenger探査機では地球1回、金星2回、水星3回のフライバイを経て、水星を周回する軌道に入った。
今回のミッションは加えて6回もの水星フライバイを実施、この間探査機と水星は太陽を17周も回ることになる。
〜公開動画を見るとまさにぐるぐると回っている?

 

○探査目的(ESAのBepiColomboサイトによる)
  水星の起源と進化の研究
  惑星としての水星/形状、内部構造、地質、組成とクレーター
  水星大気(外圏)/組成とダイナミクス
  水星磁気圏/構造とダイナミクス
  水星磁場の起源の研究
  一般相対性理論の確認

○探査機
  *水星表面探査機Mercury Planetary Orbiter
    全重量  約1140kg、観測装置約80kg
探査対象 水星の表面地形、鉱物・化学組成、重力場の精密計測
  *水星磁気圏探査機Mercury Magnetospheric Orbiter)
    全重量  約280kg、観測装置約40kg 開発費156億円
探査対象 水星の固有磁場、磁気圏、大気、大規模地形の観測
***ここまでJAXA、ESAのBepiColomboサイトから抜粋(要約)***

 

○なぜ、水星へ
  太陽に最も近い水星の探査は条件が過酷で、かなり難しいミッションとなる。それは、
〜太陽からの数百度もの高熱に耐え(地球近傍の6倍もの放射を受ける)、
〜太陽の強い重力に逆らって減速し(燃料を食う。重力の強さは太陽からの距離の自乗に逆比例)、
〜地球の半分以下の重力しか持たない水星の周回軌道に乗る
という課題をクリアしなければならず、そのため探査機には、
→放熱器の取り付けや表面を鏡面仕上げするなどの遮熱対策が施され、
→日本の小惑星探査機HAYABUSAでも使われた高効率のイオンエンジンが搭載され、
→最も効率的な(燃料節約ができる)飛行方法として、
地球、金星、水星の計9回のフライバイコースをとることになったわけだ。
  では、このような苦労を惜しまず、なぜ水星を目指すのだろうか?
周知のように太陽系には8つの惑星があり、その特徴から大きく3種に分類されている。
主に岩石から構成される水星・金星・地球・火星の岩石惑星(地球型惑星)
ガスに富んだ木星・土星の巨大ガス惑星(木星型惑星)
太陽系最遠部に位置する天王星・海王星の巨大氷惑星(天王星型惑星)である。
ところが、同種の岩石惑星と分類されているはずの4惑星の中で、
水星だけが標準から外れやや異質な存在となっているのだ。それは・・・・。

*身の丈に比して重すぎる水星
  月を含めて、地球型惑星4つの大きさと密度の関係を図示すると
月から地球までほぼ直線的に並び、大きなものほど密度が大きいという関係が見えてくる。
これは当然で、大きなもの(質量大)ほど強く圧縮され密度が高くなるからである。
ところが水星はこの直線に乗らず、大きさの割に密度が飛び抜けて高くなっている。
  水星の直径 地球の3分の1  (0.38)。質量は地球の0.05倍。平均密度5.43。
  金星の直径 地球とほぼ等しい(0.95)。質量は地球の0.8倍。 平均密度5.24。
  地球 直径 1とする         。質量   1とする。 平均密度5.52。
火星の直径 地球の半分   (0.53)。質量は地球の0.1倍。 平均密度3.93。
  これに加え
   月の直径 地球の4分の1  (0.27)。質量は地球の0.01倍。平均密度3.34。
水星の大きさから考えれば、本来なら密度は月よりも大きく火星よりも小さい、
従って3.34<水星<3.93という値になるはずである。ところが実際は5.43と大である。
これは内部組成が他の天体と異なり、重い物質ここでは鉄の中心核が大きいということになり
その大きさは水星半径の4分の3にもなると見積もられている(地球は外核でも2分の1ほど)。
もしそうだとすればなぜこのような大きな核があるのかが問題となるが、
一つは水星が生まれたあたりに非常に多くの鉄などの重い物質が分布していた、
または激しい太陽活動が水星外層の低密度成分を蒸発させてしまった、
あるいは大きな天体が初期の水星に衝突し、低密度成分を蒸発させた、などが考えられている。
だが、第一の説では、なぜ水星近傍に重い物質が偏在していたかの疑問も出てくるし、
第二の説も水星が生まれた時代(一番最後に形成された?)の太陽放射はそれほど強かったのか、
恒星進化理論との兼ね合いもありはっきりとはしない。
いろいろ考えていくと、惑星形成時代には頻繁な天体同士の衝突があったはずなので(月の成因も同様)
第3の説が一番ありそうなシナリオにも思えるが、それにも衝突の痕跡の有無が問題となってくる。
このように身の丈に過ぎる重さの水星、それが何でありどのようにしてできたのかを解明することは
水星だけでなく、太陽系の成り立ちを探る上の重要なヒントとなるはずだ。

*身の丈に過ぎる磁場を持つ水星
  水星磁場はMariner10の探査により発見されたもので、強度は弱いが地球のような磁気圏を持っている。
実はこれが問題なのである。
地球型惑星を見ると地球には磁場があるが、火星(磁場の痕跡はある)や金星にはそれがない。
地球磁場の原因は、地球内部(外核)の溶けた鉄の流れによっておこるMHDダイナモ機構と考えられており、
〜身近なものでは自転車の発電機のようなもの〜磁場の発生には液体の鉄の流れが必要になる。
水星に磁場があるのなら内部が溶融状態となっていると考えられるが、ところが水星より大きな火星には
磁場がない。太陽系惑星の成り立ちから考えても、小さなものほど早く冷え固まっていくはずなので
火星(金星にも)に磁場がなく、弱いとは言っても水星に磁場があるのは不思議ということになる。
これについては、水星磁場は単なる残留磁場ではとの見方や、
水星内部の鉄に硫黄などの不純物が混ざっているため融点が低くなっているという見方などあるが
はっきりとはしない。今回のMMOによる水星の固有磁場や磁気圏探査は、
水星磁場の成因の解明に何らかの示唆を与えてくれるだろう。

*終わりに ほかにも
  水星表面は月のような多数のクレーターに覆われており一見して区別できないほど似通っている。
しかし、これまでのMariner10、MESSENGERなどの探査によりいくつかの相違点も見つかっている。
BepiColomboサイトから項目だけ拾っておこう。
  Naを主成分とする希薄な外圏大気の存在と日変動
  メッセンジャーによる南北極域の氷の存在の確認
  過去の火山活動の存在
  直径1300kmのカロリスクレータと真裏の衝撃波伝搬跡と見られる構造
  表層の鉄の欠如
  中心核冷却による半径の縮小の痕跡などなど。
さて、探査機の水星到着まで7年、探査に1?2年。結果が出るまで考えると10年ほどの辛抱。
あっという間である。