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●ハッブルの見た深宇宙

 5月2日、NASAのハッブルサイトから1枚の画像が公開された。
ハッブル宇宙望遠鏡による16年分の深宇宙探査の結果をまとめたもので
そこには26万個もの遠方銀河の姿が収められている。
一般紙ではあまり報道されず目立たない扱いだったが、
月1個分ほどの視野しかない小さな領域に潜む膨大な銀河の姿は
過去から現在に至る銀河の形成史を記すものとして一見の価値がある。
概要を見てみよう。

**以下 NASA HubbleSite/news/2019-17から抜粋**
Release 2 of 1,157
Hubble Astronomers Assemble Wide View of the Evolving Universe
Release date: May 2, 2019 10:00 AM (EDT)
This Hubble Space Telescope image represents
a portion of the Hubble Legacy Field, one of the widest views
of the universe ever made.
The image, a combination of thousands of snapshots,
represents 16 years' worth of observations.
**以上、HubbleSiteから抜粋

 

〇ハッブル・レガシー・ フィールド(Hubble Legacy Field)
  ハッブルサイトによれば、この画像は上のように呼ばれており、
南天の星座ろ座の一角、赤経3時32分29秒 赤緯-27度49分12秒にある
30分角(≒月の視直径)の領域を捉えたもので、
観測波長は可視光を中心に、紫外から近赤外までとなっている。
ハッブル宇宙望遠鏡がこれまで得た7500枚ほどの画像からなり
その中には26万5000個もの銀河が含まれ、最遠銀河では距離133億光年、
宇宙誕生から5億年後というものもある。
このモザイク画像に含められた探査データは、次のとおり。
〜ハッブル宇宙望遠鏡(HST)による深宇宙探査
  1995年公開 Hubble deep field(HDF)
  2003年公開 Great observatories origins servay(GOODS)
  2004年公開 Hubble ultra deep field(HUDF)
  2012年公開 Hubble eXtreme Deep Field(XDF)
注)Hubble eXtreme Deep Field(XDF)は
新たな深宇宙探査の観測ではなく、HUDFでの可視・赤外観測と
以降になされた観測データを組み合わせ統合したもの


  公開画像は中〜最高解像度版(FullRes 20791x19201 PNG,529MB)。
いずれもダウンロード可能だが、フル版は処理が相当に重くなる。
ふつうには5198x4801 PNG,37MB版を見るのがよさそうだ。

 ここでは最高解像度版(20791x19201)を広げてみる。
ズーミングしていくと、そこには実に多様な銀河の世界が現れてくる。
楕円形をしたもの、渦巻きのあるもの、不規則な形のものと様々で、
中には衝突したようなものも見えている。さらにそれらの間にも、
小さく淡い銀河が無数にあり、銀河で埋めつくされている。
この画だけでは距離はわからないが、大きく明るく写ったものは近く、
小さく暗いものは遠い(≒宇宙初期の)としてみれば
銀河がどのように進化してきたか、おぼろげながら見えてくる。
  これまでのハッブルやすばる望遠鏡による遠方銀河の観測から
これら遠方の銀河には際立った特徴があることが分かってきた。
遠方の、つまり宇宙の初期の(5億年〜)銀河は概して小さい。
質量は太陽の100億倍ほどと、ふつうの銀河に比べ一桁も軽い。
形状も楕円や渦巻きははっきりせず、不規則なものが多い。
さらには、他の銀河と衝突しているようなものも多い。
中には今の銀河の100倍も活発な星形成がみられるものもある等々。
  これら遠方銀河の世界に見られる特徴から、
銀河は小さな原始銀河が合体してできると考えられるようになってきた。
宇宙誕生時に見られたほんのわずかな密度揺らぎをもととし
そこから最初の星が生まれ、集積して小さな原始銀河を作る。
そしてそれらが合体成長し今のような銀河になったというわけである。

 だが、残念ながらまだその”原始銀河”は見えていない。
目ざましい成果を上げたハッブルでも、まだ視力が足りないのである。
その解明には次世代の宇宙望遠鏡が必要となるだろう。
ただ、原始銀河はまだ見えていなくても、そのモデルとなるような
小さな矮小銀河は近年数多く発見されるようになった。
矮小楕円銀河 矮小楕円体銀河、矮小不規則銀河など様々で
中には、ガスが豊富で星形成が比較的活発なブルーコンパクト
矮小銀河と呼ばれるもの。また最近では、矮小銀河同士が複数で
集団を作っているようなケースも観測され、この小から大という
銀河進化のストーリーはほぼ確からしいものと思える。

 

〇ハッブルの深宇宙探査
  銀河はその質量や周囲の環境により性質が異なる。
質量は、矮小銀河<渦巻き銀河<楕円銀河という順で、
星形成率は、渦巻き銀河>矮小銀河>楕円銀河となっている。
だがさらに小さな矮小銀河については、数や性質もまだわからず、
また非常に若い銀河も数少ないという。
初期の銀河を見つけ出し探るという深宇宙の探査は
これからの非常に重要なミッションであるといえるだろう。

 このような遠方銀河の姿をとらえる深宇宙探査のスタートは1995年、
ハッブル宇宙望遠鏡(HST)は綿密な計画のもと選ばれた空の一点、
おおぐま座の一見何もないように見える領域、
赤経12時36分、赤緯+62度12分を10日間100時間以上かけて撮影。
得られた画像には、かすかな光を放つ3000個もの銀河が写っており、
それらははるか遠方の、これまで見たこともない宇宙の姿だった。
撮影は惑星カメラ(WFPC2:Wide Field and Planetary Camera 2)により
可視光で行われ、写された最遠銀河の距離は120億光年に達している。
また、この観測の検証のため、1998年には天球上でほぼ正反対の位置、
赤経22時32分、赤緯-60度33分、きょしちょう座領域の探査も行われ、
相対する南北方向の宇宙の姿に相違がないことが確かめられ、
今日両者はハッブルディープフィールドHDF-N、HDF-Sと呼ばれている。

 

 2002年、ハッブルに新しい高性能の掃天観測用カメラACSが搭載、
(Advanced Camera for Surveys従来の2倍広視野高解像、5倍高感度)
これを使い撮影されたのがハッブルウルトラディープフィールドである。
2004年、ハッブルは南天の星座ろ座の赤経3時32分、赤緯-27度47分の
視野角3分(月の大きさの10分の1)ほどの狭い領域を11日間かけ撮影。
これはHDFよりも可視光で1.5等級暗い30等級の天体が検出可能で、
可視、赤外(NICMOS:Near Infrared Camera/)あわせ撮られた画像には
10000個もの様々な形状の遠方銀河が写っており、最遠のものでは
130億光年(≒宇宙誕生8億年後)彼方の銀河も検出されている。
〜HDF、HUDFそれぞれの探査領域は銀河面からかなり離れている。
銀河面には星が密集しているため、銀河の極方向でなければ遠方まで
見通せない。銀河北極は赤経12時51分, 赤緯+27度07分かみのけ座方向、
銀河南極は赤経00時51分, 赤緯-27度07分ちょうこくしつ座方向と、
特にHUDFでは観測領域が赤緯-27度と銀河南極方向に近い〜

 

 その後、このハッブルウルトラディープフィールドには
2009年に新しい赤外観測による赤外データを付加、
2014年に紫外観測(ACS+WFC3:Wide field camera)データを付加、
それが今回の紫外から可視光そして赤外に及ぶ
ハッブルレガシーフィールド(HLF)へのベースとなったのである。
  同サイトによれば、現在HLFは別領域(北?)で5000以上の
画像を組み合わせたものを構築中ということで、将来的には
さらに長波長の赤外データ、またスピッツアー赤外線宇宙望遠鏡、
チャンドラX線天文台などのデータも組み込みたいとしている。

 

〇ファーストスター・最初の銀河
  観測機器の進歩や新しい観測手段の開拓により今の私たちは
徐々にだが宇宙に最初に現れた天体にせまろうとしている。
次のハッブル・ウルトラ・ディープフィールドには
現在計画が進められている30m巨大望遠鏡(TMT)、
2021年打上げ予定の宇宙望遠鏡James Webb Space Telescope
2025年打上げ予定の広視野赤外線サーベイ望遠鏡(WFIRST)など
次世代の道具が大きな役割を果たすことになる。
幸運に恵まれれば、2020年代にはさらに深宇宙(≒過去)を見た
新しいHUDFを目にすることができるようになるだろう。