天文FAQ

天文トピックス

●最近話題の天文話 4月  

●○天の川銀河(銀河系)の質量
  こどもたちから聞かれる質問に星は全部で何個?というものがある。
海・山に行ったときの満天の星空を見た驚きからの質問だろうと類推し、
大抵は目に見えるだけの星の数は何個という答えかたをするのだが、
天の川まで含めるとなると、これはかなり難しい。
(こどもたちは、天の川も星の大集団だということを知っている)
この数に直接関わってくるのが全体の質量である。
重さ(質量)はどれぐらい?とはまず聞かれることはないが、
これは実は宇宙全体の姿を知る上で非常に重要な問題である。
  前月の3月7日、目に留まった記事がある。
それは銀河系の質量をこれまでより精度良く求めることができたというもので、
HST・GAIA(ハッブル宇宙望遠鏡、ガイアミッション)のデータをもとに、
銀河系の質量を太陽質量の1兆.5千億倍ぶんとしたという。
***以下 ESAハッブルサイトから http://sci.esa.int/hubble/省略
Hubble & Gaia accurately weigh the Milky Way [heic1905]
07 March 2019
In a striking example of multi-mission astronomy, measurements from
the NASA/ESA Hubble Space Telescope and the ESA Gaia mission have been
combined to improve the estimate of the mass of our home galaxy the Milky Way:
1.5 trillion solar masses.
***ここまでESAハッブルサイトnewsから抜粋
内容は概ね以下のようなものである。
  これまで見積もられていた銀河系の質量は、太陽質量の5000億倍から3兆倍と
その値に大きな幅があった。これは銀河質量の大部分(90%)を占めるとされる
ダークマターの分布を求める手法の違いに起因するもので、
ダークマターの直接的な検出ができない限り、銀河の質量を正確に求めるのは難しい。
そこで銀河を取り巻くように分布する球状星団に着目し、
その運動を解析することで力学的に銀河の質量を求めることとした。
球状星団の運動については、これまでは視線方向データ(接近・後退)しかなかったが、
ガイアによる横方向の動きを含む3次元データを用いることで、
高い精度で銀河質量を求めることが可能となった。使用したのはガイアのデータ第2版。
これは地球から65000光年まで遠方の球状星団の運動データを含むもので、
これとHSTによるさらに遠方、13万光年彼方までの球状星団の観測とをあわせ、
ガイア34個、ハッブル12個、計46個の球状星団の運動を解析し、
その結果、銀河系の質量を太陽1.5兆個分と絞り込んだという。
  この研究については、アストロノミカル・ジャーナルに
"Evidence for an Intermediate-Mass Milky Way from Gaia DR2
Halo Globular Cluster Motions"とのタイトルで掲載される。

○銀河の質量の求め方
  何千億もの星の大集団で、直径10万光年とも言われる巨大な天の川銀河、
その銀河全体の質量を求めると言われればちょっと途方に暮れてしまいそうだ。
しかも我々はその中に住んでいる。これまで見積られた銀河質量の開きを見ても、
これは相当に難しそうだということがわかるだろう。
ではどうするのか? ここで登場するのが重力法則だ。
先ずは身近で考えてみよう。例えば太陽と地球の場合・・・。
公転する地球が、太陽から飛び去りも太陽に落ちてしまわないのも
遠心力と太陽の重力とがちょうど釣り合っているからだ。
その重力の大きさは、重力法則から、質量に比例することが分かっている。
つまり遠心力=重力∽質量というような関係となる。
これと同じことを銀河〜太陽に応用する。
銀河は渦巻き構造をした星の大集団で、数億年オーダーで回転している。
ここでも銀河の星星がばらばらにならないのは、
回転による遠心力と重力とが釣り合っているからである。
銀河の場合は質点が広がっているため一筋縄にはいかないが、
これを非常に単純化し、次のようなモデルで考える。
銀河の質量Mは中心に集中している(質点)と仮定する。
回転速度∨は中心からの距離rにより連続的に減少すると仮定する。
〜差動回転:これは太陽系の惑星と同じ、内側ほど早く外側ほど遅い〜
このように置くと、話は以下のように簡単になる
  太陽(質量m=1とする)と銀河中心(質点)との関係を見る。
すると、遠心力は m*∨の平方/r
     重力は  G*M*m/rの平方 となる。〜Gは万有引力定数
両者が等しいと置いて式を整理するとM=r*∨の平方/G。
この式から、質量は回転速度と中心からの距離が分かれば求めることができる。
近年の観測によれば、太陽は銀河中心から26000光年外れた場所にあり
この地点での銀河の(太陽の)回転速度は秒速240キロとなっている。
この値を入れて計算すると、M∽10の11乗となり、
銀河中心から太陽までの間の全質量は太陽の1000億倍という結果が得られる。
実際には銀河には星だけでなくガスやチリもある(1〜数%)。
また太陽は銀河円盤の内側にあるので全体でみれば質量はより増えるはずだが
モデルとしてはそれらしい値がでてくる。
  上記したように今回の研究は球状星団の運動から天の川銀河全体の質量を
求めたもので、考え方の基本は同じといえる。
球状星団は銀河全体を囲んでいて、その中心は銀河中心部にも一致している。
恒星よりも観測しやすいこともあり、その大きな広がりからも
ダームマターを含んだ銀河全体の質量を求めるにはよい指標である。
  なお数年前にも(2016年)、球状星団を使った同様の研究が行われており
このとき得られた銀河の質量プロファイルからは全質量を太陽7000億個分と
している。サンプルにした球状星団が同一か否かまではわからないが
(サンプル数は89個とある)速度が今回のような3次元データでないとしたら、
7000億個と見積もられた質量は下限値を示すことになる。

○銀河とダークマター
  光学的手法によって求めた天の川銀河の星の総数は1000億個ほどとされる。
銀河が星だけでできているとすると質量も太陽1000億個分となるはずである。
だが、今回のHSTやガイアのデータから得た質量は1桁も大きい。
この余剰分こそ、光では見えないダークマターとされるものである。
(正体のわからない何か・・という意味でのダーク)
ダークマターの存在は銀河の回転速度の観測から明らかにされてきた。
それは、ひとことで言うと外縁部の回転速度が早すぎるのだ。
銀河の明るさは中心部が明るく、外縁部は暗い。
この距離と明るさの関係を調べると指数関数的となり急速に暗くなっていく。
これは光る星の数が外縁部に行くに従い急激に少なくなることを示していて
上記したモデルのように、外縁部の回転速度もそのぶん遅くなるはずなのだ。
ところが観測される外縁部の回転速度は早いまま。
早い速度と釣り合わせるには、重力も強い、つまり質量大ということになる。
〜天の川銀河の回転曲線(中心からの距離と回転速度の関係)は
  銀河中心〜1000光年  距離とともに回転速度増加〜剛体回転
  1000光年〜10000光年  距離とともに回転速度減少〜差動回転
  10000光年〜50000光年 回転速度ほぼ一定
という感じで、中心から10000光年以遠外縁部にかけ速度が落ちていない〜
これは天の川銀河だけではなくそのほかの銀河でも同様である。
外縁部になっても回転速度が落ちない、つまりどの銀河にも
見えている星以上の大きな質量があるということを示している。
  この銀河に潜む何かが最初に指摘されたのは80年も前、1933年のことである。
かみのけ座銀河団中の銀河の運動を観測したツビッキー(スイスの天文学者)が
それをもとに銀河団全体の質量を算出すると、光学的に算出した質量の160倍もの
質量があるはずという結果となり、論文ではそれをダークマターと記している。
かみのけ座銀河団は3.5億光年彼方の1000個以上の銀河が集中する超銀河団。
宇宙では、個々の銀河だけでないもっと大きな構造、はるか遠方の銀河団にも
ダークマターがあることが分かる。
 
○ダークマター
  光や電波ではとらえることができないダークマターの正体は何か?
これは現代の天文学が抱える最大の謎の一つである。
その候補として、昔からあったのは暗い星説、そして最近は未知の素粒子説となる。
暗い星候補としては太陽程度の質量の星の最後の姿、白色矮星とか、
質量が小さくほとんど光を出さない褐色矮星とか、ブラックホールが挙げられる。
しかし、実際に観測されている星の質量分布から見ると
〜もちろん質量の小さな天体ほど数は多いが〜
それらを全部かき集めても銀河全体の質量を超えるような質量にはならない。
質量分布から外れるほどの膨大な数があると言えないこともないが
それはかえって不自然であり、従って暗い星説は分が悪い。
  一方未知の素粒子説は、ニュートリノ(これは既知で実在する)や、
相互作用をしない未知の素粒子(WINP)が考えられ、
素粒子の統一理論の中でアクシオンとかニュートラリーノとかの
様々な未知の素粒子が候補として挙げられている。
だが、質量が足りずダークマターとはならないとか、発見もされていないなどで
結局ダークマターは現在も??のままとなっている。
  と、この原稿を書いているときに入ってきたニュースである。
CERN(欧州合同原子核研究機関)がダークマター(候補)の検出実験を
計画しているということで、弱い相互作用をする軽粒子を捉える機器FASARを開発、
2021年から2023年には実験をスタートするというもの。
  このようにダークマター候補としては未知の素粒子が主流となっているが
結論が出るのはまだだいぶ先のことだろう。

○おわりに
  WMAPによる観測から、我々の宇宙は4%の物質と、23%のダークマター、
73%のダークエネルギーで構成されていることがわかった。その中で、
質量が集中している銀河には、銀河質量の90%ものダークマターがあるという。
見上げる夜空の星星は、その10%にしか過ぎず、殆どが見えていないのだ。
宇宙の姿は、この宇宙にはどれだけのものがあるかで決まる。
エネルギーと等価である質量、平たく言うと??重さって
とても重要なものに思えてくるのではないだろうか。