天文FAQ

天文トピックス

●最近話題の天文話 2018年4月

 

○ホーキングの世界

 現代の科学者の中で最も有名な学者の一人、スティーブンホーキング博士(英)が
3月14日に亡くなったというニュースが世界中で報じられた。76歳だった。
20代のときに筋萎縮性側索硬化症という運動ニューロン病を発症、余命数年とされたそうだが
それをはねかえし、ここまで活躍されてきたのは奇跡的と言えるのかも知れない。
車椅子の物理学者として知られ、またそのユーモラスな性格から多くの人々に親しまれた人で、
何度か来日されたこともあり、まだまだ活躍が期待されていた科学者だった。
同じ研究者仲間と学説に関して賭けをしたり、航空機による無重量体験を楽しまれたり、
またSF好きでもあったらしく米国のTV映画新スタートレックシーズン6に本人役で出演、
ニュートンやアインシュタインらとポーカーに興じる役を演じたりなど、様々なエピソードがある。
博士の最近の話題で記憶に新しいのは、一昨年この欄でも取り上げた超小型探査機構想で、
超高エネルギーレーザー光を帆で受け光速の20%まで加速できるミニサイズの探査機を作り、
太陽から4光年離れたケンタウルスα星を探査しようというもので、その発起人の一人に名を連ねていた。
  物理分野での業績として挙げられるのは宇宙論に関する特異点定理やブラックホールのホーキング放射などで
非常に強い重力のもとミクロの世界ではどのようなことが起こるかということについて研究してきた。
と、このように書くと一見シンプルだが相手は素粒子や相対論の世界、
我々が日常目にするものとは大きくかけ離れており、とても理解には程遠いような話ばかりだ。
日本でもベストセラーとなった著作「ホーキング宇宙を語る」は〜日本では100万部、世界では1000万部を
超えたそうだ)一般向けの解説本ということだが、最後まで読むのは相当につらそうだ。

 

○特異点定理
  我々の宇宙は今から138億年前にビッグバンから始まったというのはよく知られているが
このとき宇宙はどのような状態だったのだろうか?
50年以上前、ベンローズ(英)という物理学者は、星などの重い天体に重力だけが働くと
どうなるのかということをアインシュタインの重力理論(相対性理論)をもとに計算した。
すると天体は潰れ、最後には体積ゼロで密度無限大の点となってしまうということが分かった。
大きさや密度といった物理的な量が定義できない点を特異点というが、
ベンローズは重力崩壊する天体は、それを押し止める力がない限り特異点を避けられない、
ということを明らかにしたのだ。
ホーキングはこのベンローズの結論をもとに、重力崩壊の過程を時間反転すれば
それは我々の膨張する宇宙そのものにもあてはめることができるのではと考えた。
そして、相対論をもとに宇宙開闢のときまで遡れば体積ゼロ密度無限大の特異点に達する、
ということをベンローズとともに証明した。これが特異点定理である。
つまり宇宙には始まりがあり、その前には時間や空間すら存在しなかったということになるわけだ。
この頃、宇宙は膨張収縮を繰り返す〜振動宇宙論〜という説をとる学者たちがいて、
ビッグバンはあったがそれは理想化されたモデルで、現実には特異点は生じないとする見方もあったが、
ホーキングらの、アインシュタインの重力理論による限り特異点は避けられないという証明で、
この振動する宇宙という考えは退けられることになった。
〜特異点定理は、アインシュタインの重力理論が正しいという前提で成り立つものだが
初期宇宙のようなミクロの世界では重力理論は適用できず修正が必要と考えられている。
ホーキング、ベンローズによって発表された論文は1968年と今から50年前のものだが、
その後、特異点を回避する目的でヒモを基準に物理法則を再構築しようという動きが起こる。
ひも理論や超ひも理論である。
点では無限大が回避できないが、長さの要素を持つ二次元のヒモなら可能というわけだ。
そこでは微細なヒモの振動の態様がいろいろな素粒子の違いとなる等と考えられた。
今は、そのヒモが横に移動してできる面、ブレーンを基本としたブレーン理論もあり
ビッグバンとは2枚のブレーン(われわれの宇宙とほかの宇宙)が接触したもので、
それは何度でも繰り返されるとも言う。ある意味振動宇宙論の復活である。
このように重力理論と量子論を統合した量子重力理論構築への試みは様々だ。

 

○ホーキング放射〜蒸発するブラックホール
  1974年、ホーキング博士は光すら逃げられないはずのブラックホールから、
わずかずつエネルギーが失われ最後は蒸発すると唱え、その名を冠してこう呼ばれている。
  ロケットを打ち上げるとき、その速度が早ければ早いほど高くまで到達する。
それがある速度を超えると、地球の重力圏を振り切り宇宙へと飛び出すようになる。
これが脱出速度で、ブラックホールとはその強い重力のため脱出速度が光速を超えた天体だ。
天体に近づくほど重力が強まるが、脱出速度が光速となる領域を事象の地平線と言い
これより内側は光すら出ることができない、つまりどんなモノも出ることができない領域になる。
出入りは一方通行で、光や物質はブラックホールに落ちこむ事はできるが出ては来れない。
ブラックホールは肥え太るだけで痩せることはないはずだ。
  この事象の地平線付近での量子論的振る舞いを考慮して考えられたのがホーキング放射だ。
量子の世界には不確定性原理というものがある。それによれば、何もない真空空間でも
エネルギー的なゆらぎがありごく短時間の間に粒子と反粒子が対生成対消滅していると考えられる。
ブラックホールの事象の地平線でもこの粒子反粒子の生成消滅が起こっているが
もしその片方が地平線内に落ち込み、もう片方が外部に放出されたとすると、
外部からはブラックホールから粒子または反粒子が出てきたように見える。
ホーキングによれば、このときブラックホール内の強い重力場にある粒子または反粒子は
ともに負のエネルギーを持つこととなり、結果ブラックホール内のエネルギーは減少、
外部に正のエネルギーが持ち出された(放射)ということになる。
ブラックホール内では実在粒子(正のエネルギーを持つ)でさえ強い重力場のため
負のエネルギーを持つとは非常にわかりにくい話だがこれは、
事象の地平線の内外で時空の曲がりを表す式の項で時間方向の符号が逆になるため、
粒子の時間方向の運動量=(正の)エネルギーも負になるというように説明されている。
〜これもまたわかりにくい。たとえばブラックホール近傍での時計を考える。
相対論によれば強い重力下では時間の進みが遅れるため、事象の地平線に近ければ近いほど
時計はゆっくり進むようになり、事象の地平線ではそれがフリーズしたようになる。
とするならば、事象の地平線を境にその内外で時間方向の符号が逆になるというのは
なんとなくありそうな気がする。
  というようなことでホーキング放射によるブラックホールの蒸発についてだが、
ホーキングによればブラックホールはその重さに依存する温度を持った天体のように
エネルギーを放出するという。その量はブラックホールの質量に反比例し質量が大きいほど 少ない、

つまり低温となるとしている。たとえば太陽の数倍程度の質量のブラックホールの場合、
温度は100万分の1度ほどで、その蒸発には10のあとに0が60個以上も並ぶ、宇宙年齢より遥かに
長い時間がかかるとしている。ちょっと想像もつかない気の長い話である。

従って、当然のことながらブラックホールが蒸発したというような観測はされていない。

 

○おわりに
  量子論を宇宙に結びつけたような宇宙の波動関数とか虚時間のアイディアなど、
ホーキング博士の考えには(とても理解不能だが)まだまだ面白そうなものがある。
解説書は多数出ているが、見るならやはり博士本人が書かれたものがよいだろう。

という観点からあたってみると、冒頭の「ホーキング宇宙を語る」は一般書にしては難解だ。
その後、「ホーキング未来を語る」という本が出版され文庫本にもなっているが、

イラストを多用し、ずっと読みやすいものとなっている(考え方や概念はやはりふつうの人には難しい)。

また娘のルーシーとの共著の児童書「宇宙への秘密の鍵」は間に詳しい解説もあり、こどもだけでなく
おとなが読んでもいい本である。さらにこのルーシーとのシリーズ「宇宙の誕生〜ビッグバンへの旅」は
宇宙論に関しての話なので(日本での出版は2011年となっている)チェックしてみるといいだろう。