天文FAQ

天文トピックス

●最近話題の天文話  12月

○ハッブル・ルメートルの法則

10月末のことだが、宇宙の膨張速度を表したハッブルの法則の名称を変更し
ハッブル・ルメートルの法則とするという案が国際天文学連合で採択され、
今後はその新しい名称を使うよう推奨するというニュースが記事になっていた。
ハッブルは、ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)にも名が付され有名だが
ルメートルの名を知る人は少ないだろう。
だが、ハッブルの法則は宇宙について解説された本ではまず出てくる項目でもあり、
これからは教科書や天文書などすべて変えていくことになり、意外に影響大の話である。
なお、日本での表記の仕方は検討中ということである。
さてこの話、時代背景なども合わせるとなかなか面白い。以下にまとめて見よう。

 

○登場人物
  宇宙がまさに宇宙的な広がりのものだとわかったのは20世紀初頭になってからのことだ。
この時代は、宇宙の捉え方が観念的なものから宇宙論へと変わったときとも言える。
これに関わったのは、次の人物たちである。
  アルバート・アインシュタイン(1879年生〜没1955年)ドイツ  静止宇宙   1915年
  アレクサンドル・フリードマン(1888年生〜没1925年)ロシア  動的宇宙    1922年
  エドウイン・ハッブル    (1889年生〜没1953年)アメリカ  宇宙膨張の発見 1929年 
  ジョルジュ・ルメートル   (1894年生〜没1966年)ベルギー 膨張宇宙論   1927年

 

○静止宇宙〜アインシュタイン
  我々がふだん抱いている時間や空間のイメージは・・?
時間は規則正しく進み、空間はどこまでも一様に広がっている、というものだろう。
ここでは時間と空間は全く別もので、互いに独立したものと捉えられている。
このいわば日常感覚にそった宇宙の見方が、ニュートンの時代までの宇宙観だった。
だが20世紀初頭、この宇宙観は大きく変わることになる。
  1915年、アインシュタインは時間と空間は時空として変動するものだとし、
これをもとに重力の働きまで組み入れた一般相対性理論を発表した。
それは時空と物質との関係を示したもので、それを表す式(アインシュタイン方程式)は
時空の曲がり具合=物質のエネルギーというシンプルな形(一見、そう見えるだけ)をしている。
ニュートン力学では、惑星が星の周りを回るのは重力で結びついているからだと考えたが、
相対論では星が空間を歪め、それが重力として見えるとしたもので、
これを宇宙に当てはめると、宇宙の姿はそこにある”もの”が空間に及ぼす作用、
〜ここでは重力、によって決まるということになる。
アインシュタインは、相対論をもとに宇宙モデルを作るのだが、出てきた解は、
そのままでは宇宙は収縮していくというものだった。
当時アインシュタインは宇宙を不変のものと考えていた。

そこで、宇宙を静止したものとするため今日宇宙項と呼ばれる項を加えることにする。
それは重力とは逆の働きをするような項で〜重力は引き合うだけの力なので
一度均衡が崩れるとますますバランスが崩れる方向に進んでいってしまう。
均衡をとるには逆の作用をするものが必要〜
このようにして宇宙項が入った静止宇宙モデルが出来上がった。
  だがこれが後になり、アインシュタインをして生涯最大の誤りとしたという
話につながっていくことになる。

 

○動的宇宙〜フリードマン
  相対性理論の登場で、宇宙の姿を数学的に表すことが可能となり、その後
様々な人々が相対論の方程式を解こうとチャレンジするようになる。
フリードマンもその一人で、宇宙項のないアインシュタイン方程式をもとに
宇宙を一様等方(どの場所も同じ=宇宙原理と呼ぶ)なものと仮定し
重力が宇宙全体の形にどのように働くのかを求めようとした。
その結果、アインシュタインの言う静止宇宙は、いくつもの条件が揃った
極めて特殊な場合以外は起きず、宇宙は動的に変化するものだとして、
時間とともに大きさや曲率(空間の)が変わる宇宙モデルを提唱した。
その宇宙は、曲率により正=膨張から収縮に転じ最後は潰れる宇宙、
ゼロ(平坦な宇宙)=徐々に減速して、速度がゼロに近づいていく宇宙
負=徐々に減速するが、永遠に膨張し続ける宇宙
とに分けられ、どうなるかは宇宙の”もの”の量で決まることになる。
〜宇宙の(空間の)曲率とか平坦な宇宙と言われてもなかなかピンとこない。
アニメのドラえもんの4次元ポケットみたいなのが負の曲率の空間、
見た目通りにしか入らないのが平坦な空間、見た目ほどには入らないのが
正の曲率の空間、と言う感じだろうか?〜
  ところが、このフリードマンの論文は発表当初アインシュタインから
計算の誤りがあると否定されてしまう。後に誤りはないということがわかり
最後は称賛されることとなるのだが・・・。

 

○膨張宇宙〜ルメートル
  ルメートルはベルギーのローマ・カトリック教会の司祭にして物理学者であるという
ユニークな経歴の持ち主である。フリードマンに次いで、相対性理論をもとに解を求め、
宇宙が膨張していることを明らかにした。また、この宇宙膨張により光の波長が
赤側に伸びる(赤方偏移)ことをハッブルに伝えたそうで、ハッブルの法則に当たる
関係式も示している。
フリードマンと異なるのは宇宙項があるアインシュタイン方程式をもとにしたことで
宇宙項のないモデルをフリードマンモデル、あるものをルメートルモデルと呼ぶ。
ルメートルの解の場合、曲率=正はフリードマンモデル同様に膨張から収縮に転じ
最後は潰れてしまう宇宙、ゼロと負=徐々に加速し永遠に膨張する宇宙というようになる。
  ここでルメートルがユニークな点は、宇宙が膨張しているのなら時間を逆にたどれば
過去には一点に集積していたはずだと宇宙の始まりについても主張していることで、
宇宙は原初原子とも呼ぶべき単一のものから生まれ、それが様々な原子に分裂して
今の宇宙にまで進化したとし、この原初原子誕生前は時間や空間の概念もないと主張、
今日のビッグバン宇宙論につながるような宇宙の始まりの姿を提唱した。
  ところが、このルメートルの論文もフリードマンのときと同様、
やはりアインシュタインから、数学的には誤りでないが物理的には意味はないと
否定されることになる。
こう見ていくと、アインシュタインが、宇宙は静的で変わらないという当時の観念に
如何に囚われていたのかがよく分かる。

 

○宇宙膨張の発見〜ハッブル
  当時世界最大だったウイルソン山天文台100インチフッカー望遠鏡を使い
アンドロメダ銀河の距離測定(1924年)や、様々な銀河のタイプわけ(ハッブル分類)
そして遠方銀河の距離と後退速度の関係を求める(1929年)などの業績を残した。
トレードマーク?のパイプをくわえた写真は有名で、一度は見たことがあるはずだ。
近代天文学の進展に大きな功績を残したハッブルだが、最大の業績はやはり
遠方銀河の観測から、宇宙の膨張を証明したということだろう。
これにより自説を曲げなかったアインシュタインも、フリードマンやルメートルを認め、
以降膨張宇宙論は確かなものとして天文界に受け入れられることになる。

 

○ハッブルの法則
  遠方銀河ほど後退速度が早いという、距離と後退速度の関係を表したのがこの法則である。
これを逆にたどっていくと過去のある時、すべての銀河は一点に集まることになり
宇宙膨張の根拠とされる。
また宇宙の膨張率はハッブル定数と呼ばれ、この逆数は大まかな宇宙年齢を表すことになる。
〜物質無の宇宙の宇宙年齢、物質ありではこれより短くなる〜
ハッブルの法則は遠方銀河の距離決定や、宇宙年齢の推定など様々な場面で使われ
今も天文学の重要なアイテムとなっている。
  さて、ここで本筋のハッブル・・・の法則の名称について見ておくと。
上記したようにルメートルの膨張宇宙についての論文はハッブルのものより2年早い。
それぞれ理論からのもの、観測による発見という違いはあるが、それにしても
なぜハッブルの名だけ残されることになったのか?
  報道によれば、ルメートルが注目されなかったのは、
論文がフランス語だったこと、そして発表した学術誌の知名度が低かったことによるという。
だが原因はどうもそれだけではないようだ。
ハッブルの論文が出たあと、1931年にはルメートル自身の手による英訳された論文
〜今度はメジャーな学術誌での発表〜が出されたのだが
そこからは、元論文にある宇宙膨張に関する図式や説明が一切なくなっていたそうである。
誰が、一体なぜ?と、憶測も交え外野からは様々な見方が出されることになるのだが
〜ハッブルを疑うなどというトンデモ話まであったそうだが→無関係と証明される〜
ルメートル自身は自分の名が冠されてないなど全く気にしていなかったという。
  以上。このような経緯を経て、ルメートルの功績を評価しようという動きが出、
それが今回のハッブルの法則の名称変更となったわけだ。

 

○最後に
  相対論をもととした静止宇宙から膨張宇宙論への一連の流れを見ていくと、
ルメートルの手による宇宙の姿は、単一のものから始まるという宇宙誕生時の考察も含め、
現代の宇宙論によく合致したものとなっている。
後の、ジョージ・ガモフ(1904年生〜没1968年)のビッグバン宇宙論や、
現代のインフレーション宇宙論へとつながるストーリーでもあり興味深い。
このアインシュタインの相対論に関わった人々についてはよい解説本が出ている。
数年前に刊行された翻訳ものだが、
パーフェクト・セオリー 一般相対性理論に挑む天才たちの100年(NHK出版)。
フリードマンやルメートルについても紹介されており、読み物としても面白い。
詳しく知りたい向きは手にとって見るといいだろう。