天文FAQ

天文トピックス

●最近話題の天文話 2018年6月

○132.8億光年遠方銀河に発見された酸素

 昨年、この欄で(2017年04月天文話)132億光年離れた遠方銀河A2744_YD4に酸素が発見され、
これまでの最遠レコードを更新したという話を紹介したが、それからほぼ1年たった05月半ば、
今度は132.8億光年遠方銀河からの酸素発見のニュースが流れ、またまた記録更新されることとなった。
これは大阪産業大学ほか国際研究チームが行ったALMA望遠鏡による観測などから求めたもので、
このことから宇宙誕生(138億年前)から5億年後には、星によって作られた酸素があり、
また宇宙誕生2.5億年後の時点で、すでに活発な星形成がなされていたと考えられるという。
この研究については科学誌ネイチャー2018年5月16日版に掲載されている。
***以下 Nature Vol.557 No.7705から
The onset of star formation 250 million years after the Big Bang
Naturevolume 557, pages392/395 (2018) Received:24 November 2017 Published:16 May 2018
  Takuya Hashimoto, Nicolas Laporte, Ken Mawatari, Richard S. Ellis, Akio K. Inoue,
  Erik Zackrisson, Guido Roberts-Borsani, Wei Zheng, Yoichi Tamura, Franz E. Bauer,
  Thomas Fletcher, Yuichi Harikane, Bunyo Hatsukade, Natsuki H. Hayatsu, Yuichi Matsuda,
  Hiroshi Matsuo, Takashi Okamoto, Masami Ouchi, Roser Pello, Claes-Erik Rydberg,
  Ikkoh Shimizu, Yoshiaki Taniguchi, Hideki Umehata & Naoki Yoshida
***ここまで Nature 557から
発見の概要は以下のようなものである。
  ビッグバン後、数億年のうちに生まれたと考えられている最初の星、最初の銀河を発見し、
それが宇宙の進化にどのような影響を及ぼしたか探ることは現代天文学の主要なテーマの一つである。
このような宇宙初期の銀河の姿を明らかにするため上記メンバーからなる研究チームは、
ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が2012年に発見した遠方銀河MACS1149-JD1を
ALMA望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計:南米チリ)による分光観測を行い、
そこに酸素のスペクトル線(2階電離輝線OV、波長88μmの赤外線)があることを確認した。
そしてこのスペクトル線の赤方偏移をもとに、銀河までの距離を132.8億年と算出、
(宇宙膨張のため波長が伸び893μmの電波となる→波長の伸び10.1倍→赤方偏移Z=9.1096 ± 0.0006)
これとあわせVLT(大型赤外線望遠鏡:欧州南天天文台)による観測を行い、同銀河の水素のスペクトル線を検出、
その赤方偏移(波長1216Aの紫外線ライマンαが赤外に伸ばされている)から距離を求めた結果、両者が一致。
このようにして、銀河までの距離を132.8億光年と精度良く求めることができた。
  更に研究チームは、HSTとスピッツァー宇宙赤外望遠鏡により観測された銀河の色から、
(赤方偏移ゼロとした場合、赤い可視光Hα線。中心星の強烈な光で周囲のダストが電離し放射される)
そこに宇宙初期に生まれた大質量星があり、銀河年齢は2.5億年ほどと考えられるとし、
この頃にはすでに活発な星形成がなされていたと解釈できるとしている。
〜この内容については国立天文台ALMAサイトにも掲載されている〜

○MACS1149-JD1
  酸素が検出されたMACS1149-JD1は、2012年にHSTによって発見された遠方銀河であるが、
距離見積もりに関しては、非常に暗いこともあり十分な精度とはいえないものだった。
ハッブルサイトRelease ID: STScI-2012-31(2012年09月)によれば
この銀河は、手前にある銀河団MACS J1149.5+2223の奥にかすかに見える矮小銀河で、
(付された数字は銀河団の天球上の位置を表しており、しし座方向にある)
手前の銀河団が重力レンズとして働き、15倍ほど明るさが明るくなって見えているという。
それでも視等級は26.8等と非常に暗く、HSTやスピッツァー宇宙赤外線望遠鏡画像でもかすかにしか見えない。
距離は2012年時点で132億光年とされているが、これは分光観測によるものではない。
暗くスペクトルの観測ができないため多色光で撮像、色ごとの明るさ分布をもとに
赤方偏移に当てはめるというような手法で、分光観測よりも精度が幾分落ちるものだった。
今回のALMAによるスペクトル観測で精密な距離を求めることできたということになる。
  大きさは今の銀河よりもかなり小さい。質量は銀河系の1%ほどしかないとされている。
これまでの遠方銀河の観測で、宇宙初期の銀河ほど小さく形状も不定形をしている傾向がある。
それらがさらに成長、合体していくことで今のような大きな銀河ができたと考えられている。

○遠方銀河の距離の測りかた
  広大な宇宙では銀河までの距離=光の到達時間となり、距離の分だけ過去の銀河の姿を見ることになる。
宇宙の最初の天体に迫るためには、どこまで遠くの銀河を見ることができるか、言い換えれば
見ている銀河がどれほどの距離にあるかを正確に知る必要がある。
この遠方銀河の距離測定法に、銀河の後退速度の観測によるものと超新星の観測によるものとがある。
  138億年前、ビッグバンで生まれた宇宙は今も膨張し続けており、遠方の銀河ほど遠ざかる速度が大きい。
この関係(ハッブルの法則)を使えば、後退速度から逆に銀河までの距離を知ることができる。
後退速度はドップラーシフト、後退速度が早いほど銀河の光は長波長側にずれるということから求める。
銀河からの光を分光、そのスペクトル線から波長のずれの度合いを測り、距離を求めることができる。
〜元素は各元素ごと固有のスペクトルを持っている。それにより遠方銀河にどんな元素があり、また
スペクトル線の本来あるべき場所からどれだけずれているのか=ドップラーシフトも知ることができる。
  もう一つが超新星の観測によるものである。
銀河中で超新星が観測されることがあるが、このうちIa型と分類される超新星は絶対等級がほぼ決まっており、
明るさは銀河全体の明るさに匹敵するほどにもなる。そのため遠方銀河でも観測しやすく距離決定に用いられる。
このIa型超新星は実光度が同じということから、観測された明るさとの差から距離を求めることができる。
〜1998年の宇宙の加速膨張の発見(2011年ノーベル物理学賞)もこのIa型超新星の観測によるものだ。
(ただし、Ia型超新星は、白色矮星という太陽ほどの質量の星が関連して起こる星の爆発現象であり、
星が白色矮星の段階まで進化するには数億年以上もかかるためごく初期の銀河で起こるとは考えにくい。
また、超新星爆発はそう頻繁に起こるものではないのでいつでも観測できるというわけにはいかない。)

○元素と星
  誕生直後の宇宙には軽い元素しかなく、酸素などの重い元素は星の中で作られたと考えられている。
ビッグバン後、宇宙の温度が下がる中で水素やヘリウムなどの軽い元素が合成されていくのだが、
ヘリウム(質量数4)から先へ進むとき、自然界には質量数5,6の安定した原子核がないため
ヘリウムから先への反応が起こりにくく、温度が下がることもありそれ以上の元素合成は進まなかった。
現在われわれの身の回りにあるさまざまな元素はみな星によって作り出されたものである。
核融合反応により中心部の水素がヘリウム、炭素、ネオン、酸素、へとより重い元素に変わり、
星は複雑な構造へと進化する。その進化の過程で自分自身の重さを支えきれなくなると急激につぶれ、
そこに発生した熱で爆発的に核反応が進行、超新星爆発を起こす。
このとき、さらに重い元素も一気に合成され、それらが周囲に撒き散らされる。
そして爆発による衝撃波は周囲のガスを掃き集め、それが次の世代の星を生み出すきっかけとなる。
こうして星が世代を重ねるにつれ、宇宙の重元素量は徐々に増加していくことになる。

○宇宙の暗黒時代とファーストスター
  重元素がない初期の宇宙では、星の形成過程で重元素による効率的な放熱がないため
質量の大きなガス塊でないと収縮できず、必然的に大質量星が生まれることになると考えられる。
また宇宙自体の温度も下がりきっていないため余計に大きな塊が必要となる。
従って宇宙に最初に生まれた星、ファーストスターは、
重元素を持たない太陽質量の数百倍〜もの超大質量星ということになる。
このような超大質量星は非常に進化が早く、百万年〜ほどで超新星爆発を起こす。
(U型超新星、あるいはさらに大きな極超新星)、
ALMAが検出したMACS1149-JD1の酸素は、少なくとも2つの世代の星が関わるものと考えられ、
この銀河の距離132.8億光年、つまり132.8億年より前の時代に星が生まれていたということになる。
  それでは、ファーストスターはいつ生まれたのか、実はまだ分かっていない。
宇宙からやってくる原初の光(マイクロ波)を捉えることを目的に打ち上げられたWMAP衛星により
我々は誕生38万年後(宇宙の晴れ上がり)の宇宙の姿を見られるようになった。
だが、この時代にはまだ星は無く、宇宙は3000度もの高温のプラズマの塊のような状態だった。
この間、最初の天体が生まれるまでの期間は宇宙の暗黒時代と言われ、まだ見ることができない。
(しかし、ヒントはある。先のWMAP衛星によるマイクロ波の観測で赤方偏移Z=17から20、
宇宙年齢2億年相当の時代には、超大質量星の光によると考えられる再電離が始まっているようなのだ。)
今回の観測は宇宙初期の銀河の様子を知るということで、この暗黒時代に一歩迫るものだとも言えるだろう。

○これから
  研究チームが行った遠方銀河のOV輝線の観測は数年前に行われるようになったばかりのもので、
前回2017年の最遠レコード更新も同様の手法によるものである。
これは日本の研究者がALMAによるOV輝線の観測は有望と示したことがスタートのようだ。
OV輝線は紫外光や可視光に比べ長波長のため、星形成領域に豊富なダストに吸収されにくいこと、
宇宙初期の超大質量星が放つ紫外線放射で周囲のダストが励起され輝線強度が強く出ること、
赤方偏移のため波長1000μm(1ミリ)程の電波となり、高感度のALMAの観測に適することなどの利点が考えられるが
更に遠方の初期銀河の検出のため、これからもALMAによる観測が続くのではないだろうか。