天文FAQ

天文トピックス

●最近話題の天文話 2月  

 

●太陽系探査2019〜探査機たちの今 その1

 火星大接近などに沸いた昨年に比し、今年は天文現象では目立つものがない。
だが太陽系探査という点では、いくつものプロジェクトが同時進行しつつあり、
新たな画像が公開されるなど、その成否が注目されている。
そんな中、年明け早々に飛び込んできたニュースが2つ、
太陽系外縁天体を目指し飛行中のNASAのニューホライズンズ2と、
月の裏側に史上初めて着陸した中国の月探査機嫦娥4号である。
前者は、これまで人類が目にしたことのない史上最遠の天体の姿を明らかにし,
後者は、月の裏側の初の直接探査という点で多くの注目を集めた。
外縁天体と月、最遠(現時点で)と最近、という対称的なターゲットだが、
ともに太陽系の折々の痕跡を残すものであり、
特に前者は太陽系形成時の姿を留めるもので、その探査は非常に重要である。

○ニューホライズンズ2
  2019年1月1日、NASAの無人探査機ニューホライズンズは、
太陽からはるか遠く65億キロ彼方の小天体の脇を駆け抜け、その画像を送ってきた。
天体は2014MU69、2014年にハッブル宇宙望遠鏡により発見されたもので、
以後の星食観測などから細長い形状をしていることが分かっていたが、
公開された画像ではまるで雪だるまのような形状をしており、
大小2つの天体が緩やかに衝突合体してできたものだと考えられている。
  研究チームによれば、2014MU69は海王星以遠を回るカイパーベルト天体の一つ。
太陽から平均距離66億キロのほぼ円軌道を回り、自転周期は15時間、公転周期294年。
反射率は0.1と暗く、表面は宇宙線による赤化(宇宙風化)が見られるという。
ニックネームはウルティマ・トゥーレUltima Thule〜ラテン語で、世界の果ての意味〜。
幅19kmの大きい方をウルティマ、幅14kmの小さい方をトゥーレと呼んでいる。
その軌道は重力的な影響をあまり受けておらず、そのため太陽系生成当時の姿を
色濃く残しているであろうと期待されている。
〜太陽系の小天体の場合、海王星など大質量の惑星の重力によりその軌道が乱され
太陽系外縁まで弾き飛ばされるようなケースも数多くあると考えられている〜
  ウルティマ・トゥーレの全体像だが、1月24日付けでより解像度の高い画像が公開された。
それを見ると全体は丸めのジャガイモ(男爵?)2つがくっついたようなイメージで、
表面は大きく広がった暗い領域とやや明るい領域が入り混じり、
緩やかな起伏やくぼみ、白っぽい幅の広いリル状の地形、小クレータ様のものが偏在、
中には新しい衝突痕のような内部が白くなっているものも見ることができるなど
当初公開されたものより詳しい様子が見られるようになっている。
  探査機は現在すでにウルティマ・トゥーレを後にし、次のターゲットを目指すべく
飛行を続けているが、高解像度データの送信は継続中で完了まで20ヶ月はかかるとされ、
ミッションは少なくとも2021年までは延長されるとことになっている。
探査機がカイパーベルトを抜け出るのは2027〜28年過ぎと、まだ10年近くはかかり、
次はどの太陽系外縁天体を目指すのか、ニューホライズンズの健康と長寿を期待したい。

○探査の経緯
  周知のようにニューホライズンズは冥王星探査のため2006年1月に打ち上げられた。
打ち上げ後、同年8月の国際天文学連合(IAU)総会で決まった惑星の新しい定義により
冥王星は準惑星とされることとなってしまったがその後も順調に飛行を続け、
2015年7月に冥王星に最接近し(14日フライバイ)冥王星やとカロンなどの衛星を探査。
冥王星の3千メートルにも及ぶ氷の山脈の存在や、クレータの分布密度等も調べ、
比較的最近まで(〜1億年)冥王星では活動があったと見られるなどを明らかにした。
この冥王星探査後、燃料は十分に残り機器も順調に作動していたため〜原子力電池も搭載〜
ミッションの延長が決まり次のターゲットとしてウルティマトゥーレが選ばれたわけだ。 

○ウルティマトゥーレのでき方
  公開画像とあわせ、この天体がどのように形成されたのかの説明図もある。
それによれば、ガスとチリが集積した中から多数の微天体が生まれ、
そのうち大きく成長した2つが引力で結びつき互いを回るようになり、徐々に接近、
最後には接触するまで近づき合体、今の姿となったとしている。
これはスケールこそ違うが惑星の形成過程と同様で、太陽系惑星の場合、
標準的な考え方では惑星は大きさ10キロ程度の微惑星が集積成長してできたとされ
その個性の違いは太陽からの距離に起因するものと考えられている。
  一方、小天体の形成に関するモデルが最初に提唱されたのは比較的最近で2012年。
小天体の形成に関するモデルが提唱され、その後シミュレーションなどをとおし
小石程度の天体がガスとチリの中で重力的にどのように成長するかが分かってきた。
  ウルティマトゥーレの場合も、太陽系の天体は外縁部ほど公転速度が遅くなるため
衝突も緩やかとなり(秒速1m以下というような非常にゆっくりとした速度とみられる)
弾き返されもせずバラバラに破壊もされず合体することができたのだろう。
〜なおこの合体のプロセスには、重力だけでなく天体に含まれる水も重要となるだろう。
ウルティマトゥーレの合体部分は周囲に比べかなり明るく見えている。
ここは衝突で粉砕された粒子が固まった部分と見られ、衝突時の熱と圧力で氷が溶融、
それが粒子に浸透し固着させたと考えられる。

○嫦娥4号
  上記、ニューホライズンズのフライバイから間もない1月3日、
中国の月探査機嫦娥4号が史上初となる月の裏側への着陸に成功したとの報が流れた。
昨年12月8日打ち上げられ、12日に月周回軌道投入。30日に着陸軌道に入っての着陸である。
着陸機には月面探査車玉兎2号も乗せられ、すでに船外に出て最初の画像も送信している。
報道にもあるが、1960〜70年代にアポロ宇宙船による何回もの月面着陸がありながら
なぜ月の裏側への着陸を行わなかったのか、それは月が常に同じ面を地球に向けているからで
裏側への着陸では地球との交信ができないという理由からだった。
それを回避するため中国は前年2018年5月、鵲橋(じゃっきょう)という中継衛星を打ち上げ
地球から見た月の裏側に位置するラグランジェ点L2を周回する軌道上に乗せた。
L2とは地球〜月系で重力が力学的に釣り合う箇所で、衛星はそこに安定していることができる。
嫦娥4号はこの中継衛星で地球との通信を確保し、探査を行うことになる。
  着陸地点は月の南極側、巨大隕石の衝突跡と見られている直径2500キロのエイトケン盆地で、
そこにあるフォン・カルマン・クレータの探査を行い、地質調査や年代測定を行うという。
表側とは異る特徴を持つ裏側の直接探査は、月の歴史や構造を探る手がかりとなるだろう。
〜月の裏側については日本の月探査機かぐやなどによる精密な地図が作られている。
これをもとにした月球儀も市販されており、手にして眺めてみると裏側にはほとんど海がなく、
クレータに覆われ。表側とは全く異る様相を呈していることが分かる。
また内部構造も同様で、表と裏とでは地殻の厚さも異なり、裏側がやや厚い。
(表側は60キロ、裏側では68キロ平均、100キロの厚さの場所もあるという)
全体の形状は完全な球体ではなく西洋梨型で、重心も2キロほど地球側に寄っている。
このような月の内部構造を探るには、月震(月の地震)の観測が欠かせない。
嫦娥4号にも観測機器として地震計が含まれており、これまで表側だけだった地震計が
裏側(真裏ではないが)にも設置されることになったわけで、
観測ポイントが増えることで、観測精度の向上にもつながっていくことだろう。
  このほかの機器として植物の種子の発芽実験を行う装置や、低周波電波分光器もあり、
特に後者は中継衛星の鵲橋とあわせ、低周波電波望遠鏡としての機能も果たすという。
〜1月16日、この発芽実験で綿花の種子が発芽したというニュースも流れた。〜
  なお、中国の月探査計画は今後も継続して行われることになっており、
次の嫦娥5号ミッションでは月の岩石のサンプルリターン、
更に2020年以降には月への有人飛行、そして月面基地建設を目指すという。
中国の月探査計画は月の宇宙利用や資源開発のねらいがあるとも言われるが、
そのあたりは米国も同様なので、少なくとも侵略?とならないよう(月人はいないけれど)
自制しつつ探査を進めていくことが望まれる。

○月の表と裏
  月の表側と裏側はどうして大きく違うのだろう。
その原因を探るには月がどのようにしてできたのか、その成因が重要になる。
月の成因として、以前から地球との関係で、親子説・兄弟説・他人説とあったが
現在最も有望視されているのがジャイアント・インパクト説で、
原始地球に火星大の天体が衝突、飛び散った両天体の破片から月が形成されたというものだ。
これは上記の親子〜他人説的で分けるならば親&ミックス(犬などのペットのミックス?)
とでも言えるだろうか?
  このジャイアント・インパクト説とからめて、月の裏側の地形について説明したものに、
Lunar Farside Highlands Problem ペンシルバニア州立大学ニュース(2014年06月09日)があり、
これがなかなかうまく説明されているので、以下にその概要を紹介しよう。
**Pennstate university news 2014年06月09日
https://news.psu.edu/story/317841/2014/06/09/research/55-year-old-dark-side-moon-mystery-solved
ジャイアント・インパクトにより地球の外層が一部剥ぎ取られ、衝突天体の破片と合わせ月が形成される。
このときの月は高温で全球溶融し現在の10倍以上も地球に隣接し高速で公転していた。
この状態で自転周期と公転周期は一致、月は常に同じ側を地球に向けるようになる。
月が冷え始めるが、地球がまだ高温であるため月の地球側は高温の溶融状態、反対側は低温となる。
月の冷却した側に衝突により蒸発した物質(Al,Caなど)が降り積り凝縮、それが地殻として厚く成長。
その後、月の表層は固化、内部はまだ溶融状態の時代に隕石の重爆撃があるが、
裏側は地殻が厚いため隕石は内部まで達することなくクレータとして残り、
一方表側は地殻が薄かったため隕石は貫通、内部の溶岩が大量に流出、海を作る。
と、以上のようなことが原因となり月に表裏の違いができたと説明している。
〜月を見ると、確かに海の溶岩がクレータの隔壁を壊している箇所があちこちに見られる。
地殻が厚ければ内部の溶岩の流出がないので海ができず、クレータも消されないというわけだ。
こうして月の表裏の違いはうまく説明できるのだが、それをより確かなものとするためには
月の内部構造を知ることが必要で、そのためには高精度の地震計を裏側にも多く設置して
観測精度を高めることが重要となる。

○月の地形の形成史
  クレータや海といった月の地形がどのようにできたかはアポロの月探査などにより、
その形成史が明らかにされている。大まかに言うと
月誕生(45億年前、全球溶融)→マグマオーシャンからの地殻形成(44〜43億年前)→
高地の火山活動(44〜39億年)→海の火山活動(43〜29億年)→隕石重爆撃期(39億年前)
という流れとなる。
月の裏側にほとんど海がないということから、裏側の火山活動は表側より早く終わり
30億年ほど前にはほぼ終息したと見られている。
  ただ、月の裏側地形の形成年代については別の話もある。
2008年と少し古くなるが、日本の研究者(JAXA)による月探査機かぐや画像を解析しての研究で
次のようなものがあり、その概要は
***以下、Scienceから タイトル抜粋***
Long-lived Volcanism on the Lunar Farside Revealed by SELENE Terrain Camera
Vol. 323, Issue 5916, pp. 905-908
DOI: 10.1126/science.1163382 Nov.07,2008 Scientific American
  月の裏側の海に見られるクレータの分布密度を調べることで海の形成年代を求め、
その結果、裏側にあるモスクワの海などの中に25億年前に作られたものがあることを発見、
月の裏側の火山活動は少なくても25億年前までは続いていたと見られるという。
  これまで、アポロによる岩石資料・月隕石の調査などから月の海の火山活動は
およそ29億年前頃には終わっていたと考えられていたが、この結果はそれと異なる。
ただし。この研究はあくまでクレータの密度分布からなされたもので、直接年代測定
されたわけではない。このことからも月の裏側の直接探査は非常に重要である。

○おわりに
  2019年(&以降)に成果が期待されている太陽系探査計画はこれだけではない。
小惑星からのサンプルリターンを目指す日本のハヤブサ2、NASAのオシリスレックス。
火星の地中探査を目指し運用中のNASAの火星探査機インサイト。
太陽コロナ観測のため太陽へ大接近を繰り返すNASAのパーカーソーラープルーブ。
  更には、
木星を周回中のNASAの木星探査機ジュノー。
火星表面を探査中のNASAのキュリオシティ。
水星へと向かいつつあるESA(日本も加わる)の水星探査機ベピコロンボ。
金星周回中の日本の探査機あかつきなどなど、目白押しである。