○解説記事(抜粋)
天文資料集
天文の話題
(話題の天文話アーカイブスより抜粋)
            
            
            
            
            ●光害
天の川を見られなくなっているという調査結果が公表された。
~サイエンス・アドバンシズ(米国:6月10日電子版)
light pollution astronomy environmental protection~
欧米の研究者たちによる論文で、3万5千か所以上の地上ポイントからの観測と、
地球観測衛星スオミNPPによる2014年分のデータとを合わせ光害マップが作られた。
注:スオミNPP(Suomi National Polar-orbiting Partnership)
米海洋大気局が運用する地球観測衛星。Suomiは米国の気象学者名。
極軌道を周回し、24時間で地球を14周する。
気候変動やオゾン層観測、気象予報、地表の植生、氷に覆われた地域、温度、
自然災害、大気汚染、エネルギー供給量などのデータを取得。
さて、この新しい光害マップによれば、
世界の人口の8割以上が何らかの光害の影響を受けており
その傾向は先進国ほど高なっている(当然とも言える結果だが)。
米国では人口の8割、欧州では6割、
そしてこの日本でも7割ほどの人が、天の川を見られないという。
光害にさらされていないのは、アフリカとかマダガスカルなどの国々で
まだ8割近くの人々が自然の星空を見ることができるということだ。
また、研究者たちは今回の調査結果が、
星空が見えなくなったということだけでなく
光害が健康面に与える影響や、夜行性の生物に与える影響など
様々な分野にも役立てばと期待しているようだ。
これと似たような調査は数年前まで日本でも行われていた。
全国星空観察~スターウオッチングという事業で、
夏はおりひめ星の近傍を、冬はスバルを見て、
そこにどこまでの明るさの星が見られるか調べるというものだった。
環境庁が音頭取りをし、各地の科学館や公開天文台、学校のクラブ、
同好会など中心に一斉に行われたので参加した人も多かっただろう。
この川口も、東京に隣接し以前にも増して空が明るくなっている。
科学館天文台から見た南の星は、街明かりで3~4等星までしか見えない
(~夜景としてはきれいかもしれないが)。もちろん天の川も見えない。
夏のさそり座は釣り針形が特徴だが、釣り針の先の星たちは高度も低く、
見られるのはお盆休みぐらいになってしまった。
北の北斗七星も、七つの星を全部コンスタントに見るのは難しく
条件が良くても6つしか見えないというときも多い。
○2001年版光害マップ
宇宙から見た夜の地球ということで地球儀にもなっており、見た人もいると思う。
これはDMSP(Defense meteorological satellite program)気象衛星の観測から、
地上から恒常的に出されている光源だけを集めたもので、
World Stable Lightsとして米国の海洋大気局(NOAA)により公開されている。
それを見ると2001年当時から、英独仏などヨーロッパ諸国や日本・韓国、モスクワ、
アメリカ東海岸など、北半球側がとりわけ明るくなっているのがわかる。
日本を詳しく見てみると東京、大阪、名古屋を中心に太平洋側が明るい。
南半球もピンポイント的に明るい地域はあるが北半球よりはその広がりは小さい。
と、このような状況だったが当時から10年が経過、
途上国の経済発展、地球温暖化など自然環境の影響も含め、
空を明るくする要因はますます増えている。
○2016年光害マップ
e Tecnologia dell'Inquinamento Luminoso)のファビオ・ファルキ博士らが
勤務時間外のフリーの時間を使って調査し作成したものだそうだ。
2001年の光害マップでは地上からの光だけを注目していたが、
今回のものはこれに加えて空からの反射光も考慮されているとのこと。
これは前回とは異なり、地上からの視点という要素が強いともいえよう。
もう一つの違いは表示が6段階にランクわけされているということ。
本来の(全く光害のない)星空、地平線近く(に光害の影響がある)が悪化、
天頂までが悪化、自然の空が失われている、天の川が見えない、そして
目の錐体細胞(色を感じる)が(明るさで)活性化とあり、
こちらも地上からの視点ということが言える。
このように2001年版とは視点や表示法が異なるので単純比較はできないが、
まずはこの日本に注目してみよう。
天の川が見えないレベルは東京、名古屋、大阪、また札幌、北九州にあり
特に最初の3地域はその領域が大きく広がっている。
自然の空が失われているというレベルはほぼ日本全体に広がる。
本来の空が見られるレベルは(世界地図になっているため解像度が足りず)
このマップ上ではまったく分からない。
条件の良い場所でも、天頂まで影響が出ているというレベルであった。
かって、天文台スタッフから
新しい天文台候補地の調査などで南の孤島に行くと満天の星空で、
水平線まで星が見えると聞いたことがあるが、
今はそんな場所は国内では、ピンポイント的にしか望めないのかも。
世界はどうか?自然の星空が失われているというレベルで見ると
アメリカの中部から東海岸全体、ヨーロッパほとんど全土、ロシア一部、
中東の大部分、インド、中国東部、南米の東岸部、東南アジアなどに
大きく広がっているのがわかる。陸地面積で見ると全土の3分の1から
4分の1ほどがそんな状態だ。
一方、本来の星空が残されているのはアラスカやカナダ、南アメリカ中部、
アフリカ、オーストラリア、ロシア、南極大陸などとなっている。
余談
LEDは発光効率がよく省エネには最適である。
しかし、光害という観点からは単純には喜べないかもしれない。
例えば、2016年光害マップではLEDによる空の明るさの度合いが
過小評価されている可能性もあるようなのだ。
今回のデータのもととなったスオミNPPのカメラは
可視光の短波長側、青~紫の光の感度が高くないということだ。
気象衛星という性格上、カメラは赤外~近赤外中心のCCDが使われる。
照明用の白色LEDは、青色LEDと黄色発光体を合わせ白色に見せる
というものが多いという。そのピーク波長は470nmあたりになる。
青色の光は赤色よりも散乱しやすく、空全体を明るくする原因にもなる。
その感度が低いということは、実際に我々が感じる空の明るさは
今回の光害マップで表示されるレベルより大きいということになる。
もう一つが地球温暖化について。
これは光害という観点からもあまり歓迎したくない。
真冬の空が澄んでいるのに対し、夏空は白っぽい。
地球温暖化は大気中の水蒸気量の増加やエアロゾルの割合を増し
その結果大気中の散乱光が増えて夜空を明るくする一因にもなる。
最後に、
この地球という惑星、まだ本来の星空を残す地域も多いが、
逆にそれが失われたという地域も特に北半球側で目立つ。
夏休みにきれいな星空を堪能したくなったら
赤道越えで南半球側に旅するのが一番いいのかもしれない。
●地球温暖化
NASAによれば、2017年の地球の平均気温は高く、1880年の観測以来2番めの暖かさだったという。
ただし、この年は気温上昇の要因となるエルニーニョ現象が見られなかったのでそれを考慮すると
2017年は観測開始以来これまでで最も暖かかった年になるとの分析もされている。
地球全体の平均気温はここ数年、毎年のように過去最高というレコードが更新されており、
年々暖かく、地球温暖化の傾向がますます顕著となっているようだ。
**以下NASAのHPから抜粋
Jan. 19, 2018 RELEASE 18-003
Long-Term Warming Trend Continued in 2017: NASA, NOAA
Earth’s global surface temperatures in 2017 ranked as the second warmest since 1880,
according to an analysis by NASA.
Continuing the planet's long-term warming trend,
globally averaged temperatures in 2017 were 1.62 degrees Fahrenheit (0.90 degrees Celsius)
warmer than the 1951 to 1980 mean, according to scientists at NASA’s Goddard Institute
for Space Studies (GISS) in New York. That is second only to global temperatures in 2016.
**ここまでNASAのHPから
上記によれば、2017年の世界の平均気温は1951年~1980年の平均値と比べ0.9度C上昇しており、
この値は2016年に次ぐ高さになるという。
また英国象庁・米海洋大気局(NOAA)も同様の分析で2017年を観測史上3番めの暖かさとし、
違いが見られるが、これは集計処理のやり方による差異で、前者は年単位での集計結果、
NASAは長期的な傾向を見るため、年ごとの小さな変動を平滑化処理しての結果ということである。
このようにエルニーニョやラニーニャといった自然現象の影響を取り除いてもなお残るような
かなり早いペースでの世界的な平均気温の上昇は、人が排出し続けている温室効果ガスの増加蓄積が
主な要因となっていると考えても大きな誤りではないだろう。
何年か前のことだが、スーパーコンピュータを使っての地球温暖化シミュレーションがなされ、
それをもとにした赤い地球儀というのを見たことがあるが、極地方やヒマラヤ山脈といった寒冷地域ほど
温暖化の影響が著しく、ダメージが大きいことが見て取れた。
(~先だって、過去最大級の氷山が南極から分離したというニュースなどもあった。
温暖化による地球環境への影響はすでに各所に出始めていると言えるだろう。)
○温室効果と金星
将来、地球の平均気温が数度上昇し、海面上昇や気候変動などの影響が出ると言われている。
年数度ぐらいなら、暖かくなっていいのではという程度の認識ぐらいしか私たちには持てないが
温室効果の影響は全地球的観点から見ても予想以上のものがある。
その一例、この温室効果が暴走した極端な世界が太陽系で身近にある。
それはかって地球の兄弟星と言われた金星だ。
金星は地表温度500度、大気の主成分は二酸化炭素で地表付近の大気圧90気圧という高温かつ
濃厚な大気に覆われた世界である。過去の地球の姿が金星と表されることがあるが
地球より太陽に近く、厚い雲と濃厚な二酸化炭素による温室効果でこのような世界となったと考えられている。
地球には幸い海があったため大気中の二酸化炭素は吸収され、また鉱物として固定されるなどして減少、
極端な温室効果は働かず温暖な世界となったと言われる。こう見ると温室効果恐るべしである。
○地球史から見た温室効果
その一つにスノーボール仮説というものがある。
それは今から6億年ほど前の地球は全体が凍結していたというもので、
この時代に活発化したマントルの運動で超大陸が誕生し、この陸から流された有機物が
堆積岩中に固定されることで(有機物が分解されないので)結果として二酸化炭素量が減少、
また大気中の二酸化炭素が、大陸から流され海水中に溶けたカルシウムと結合、
石灰岩として固定され減少。これにより温室効果が弱まって地球全体が寒冷化したとされる。
その後、海が凍りついてしまったことでに火山活動などで放出された二酸化炭素が吸収されず、
濃度が徐々に上昇していき、結果高濃度の二酸化炭素が蓄積され今度は一気に温室効果が暴走、
温暖化が進んだというようなストーリーが考えられている。。
もう一つはマントルオーバーターン仮説。
これはマントル対流によってマントル中に沈み込んだ大陸プレートの残骸が徐々に蓄積され
さらに深部(外核)に落ち込むと、その反動で逆の熱い上昇流(ホットプルーム)が活発化、
地殻に達し地表の火山活動が激しくなり、超巨大噴火を起こし太陽光を遮断、寒冷化が進む。
だが、この後、火山ガスの放出で二酸化炭素濃度が増して結果温暖化が進むというような
ストーリーで、温室効果ガスの増減は地球環境に大きな影響を及ぼすことが分かる。
このような大きな環境変化は当然生物にも大きな影響を及ぼす。これまでの地球史でも
生物の大量絶滅が何度かあったと考えられ中でも2.5億年前の大量絶滅は時に知られている。
○おわりに
これに数百年~数千年といった中長期的な気候変動には(おそらく)太陽活動も関連し、
さらに数千万年~数億年といったの非常に長い期間での気候変動は地球内部の運動が起因し
というように、地球温暖化・地球寒冷化には様々な要因があると考えられる。
今の温暖化の傾向は、すべてが温室効果ガスの排出が原因とは言えないかもしれないが
地球そのものや太陽活動によって起こされる環境の変動は、現状進みつつある変動より
はるかに長いスパンで起きると考えるのが自然だろう。
●恒星間旅行
内容については次のウェブサイトで公開されている。
http://breakthroughinitiatives.org/Initiative/3
....In the last decade and a half,
rapid technological advances have opened up the possibility of
light-powered space travel at a significant fraction of light speed.
This involves a ground-based light beamer pushing ultra-light nanocrafts
- miniature space probes attached to lightsails - to speeds of up
to 100 million miles an hour.
Such a system would allow a flyby mission to reach Alpha Centauri
in just over 20 years from launch,....。
ここで言われている中身は、
帆のついた超軽量で微小サイズの宇宙船を~もちろん人間は乗れない~、
地上から強力な光線ビームをあて光速の何分の1かまで加速し、
20年ほどで太陽のお隣の恒星(αケンタウリ)まで到達させるというもの。
今までにない発想の実に面白いアイディアだ。
まだ課題はあるようだが、これなら夢物語りでなく実現できるかも?
先日も、我々が宇宙人に会えるのは確率的にまだ1500年は先!なんて
アメリカでの話もあったし、恒星への旅について見ていくことにしよう。
○これまでは
というような絵を見たことがあるだろう。
月や惑星までなら数日~数年という程度だが、
恒星までは、最速のロケットでも7~8万年も時間がかかる。
SFの世界では、
恒星間の移動にはワープという手法を使うのが定番になっている。
ワープとは歪めるとか曲げるという意味だが、
光速を超えられない(最近は幼稚園児でも知っているぐらい有名)の回避のため、
空間を曲げて近道を作り何光年何千光年という距離を飛び越えるという代物。
似たようなもので、ブラックホールを利用するなんてのもある。
因果の地平線を超えると別の宇宙へつながっているかも?という話だが、
これだと一体どこへ連れていかれるか分からないし、
大体そのブラックホールまでどうやって行くんだということにもなる。
さて、そんなこんなで今まで人類がやってきたのは、
宇宙人へのメッセージを巨大なパラボラアンテナで送信したり
(1974年アレシボ電波望遠鏡から球状星団M13に向けて送信。
宇宙に生命のある星はどれくらいかという計算式を書いたドレーク博士や
カール・セーガン博士などが呼びかけ人~M13までは距離25000光年!
なんと気の長いプロジェクトだったんだろう)
太陽圏を抜けつつあるボイジャーにメッセージを託すというぐらいだった。
◎スターショット計画
どんな人かは寡聞にして知らなかったが、あちこち見てみると
億万長者、投資家、企業家、慈善家とか色々と書いてある。
彼が当座の研究資金として1億ドルを拠出し
多くの研究者たちと協力して計画を進めていくということだ。
(~総額としては50~100億ドルの費用がかかると見込まれている)
このミルナー氏、以前にもブレークスルー・リスン(Breakthrough Listen)計画
という、今後10年のうちに宇宙の知的生命体からの信号を探っていくとの
やはり1億ドルのプロジェクトも立ち上げているそうで、
内外のお金持ちもこういうお金の使い方をしてくれると素晴らしいのだが。
計画への賛同者は各界にわたり、錚錚たる学者たちが協力者として名を連ねている。
すぐに目についたのがスティ-ブン・ホーキング博士。
まず知らない人はいない有名な理論物理学者だが、この人、けっこうなSF好き。
かなり前のことだが、スタートレック(数多くのファンがいるSFテレビドラマ)に
ホーキング本人役で出演。アインシュタイン、ニュートンなどとポーカーを楽しむ
という役どころを演じていた。とまあこんなユーモアに富んだ人なので、
今回のような話にはいかにも喜んで加わりそうだ。
あと、フリーマン・ダイソン。こちらもダイソン方程式でよく知られる理論物理学者。
ソール・パールムッター。宇宙の加速膨張の発見でノーベル物理学賞を受賞。
フェイスブックのCEO、マーク・ザッカーバーグなどなどさまざまだ。
○宇宙船スターチップ
色々な機能を集積したコンピュータチップのようなものだ。
しかも1機だけではなく、数千機をまとめて送り出すという。
サイトによれば、切手ぐらいの大きさの超小型宇宙船で、重さはグラムの単位、
せいぜい数グラムとしたいようで、その名のとおりチップの重さしかない。
搭載機器は高精細カメラや通信機器・ナビシステム、
これらを動かすための電力装置(恒星間を飛行するので太陽電池パネルは使えない)など。
これに1m四方ほどの極薄の帆をつけて、超高出力レーザーをあてることで推進する。
また宇宙船1台当たりのコストはスマートフォンより少し高いぐらいとなるとか。
このように非常にユニークな宇宙船だが、これらを実現するための技術は
まだ開発されておらず、研究開発含め20年ほどの時間がかかるだろうとしている。
超軽量超小型の高精細カメラ、長年月稼働できる超軽量超小型電池(原子力電池?)、
極薄だが強靭な帆、1000億ワットもの超高出力レーザー照射装置など、
まさにブレークスルーの技術開発がなければ作れない宇宙船となる。
今の技術革新のスピードを見れば、今世紀中には実現できるかもしれないが
~小型化はけっこう行きそうだが、軽量化は特に電池関係で難しそう~
全体の経費面を含め、はたしてどうなっていくのだろう。
○レーザー推進
そこで使われるのが化学燃焼型のロケットエンジンだ。
燃料を燃やして出たガスをノズルから噴出して飛び上がる、
スペースシャトルやHⅡロケットなどのエンジンがそれだ。
この化学燃焼型ロケットは推力が大きく短時間で加速できるので打ち上げには都合がいい。
ただ、ガスの噴出速度は秒速3キロ(~数キロ)ほどしかないので、
多段式にして速度を加算することで地球の引力を脱している。
難点は効率の悪さだ。そのほとんどを推進剤が占め、その分重量が重くなる。
積める燃料にも限りがあるので、スイングバイなどの技法も使いながら
秒速20キロほどの速度を得ているのだ(~ボイジャー探査機がこれぐらい)。
一方、ハヤブサで広く知られるようになったイオンエンジンは、
電気推進型エンジンだ。イオンを電気的に加速、その噴出速度は秒速30キロにもなる。
推力は小さいが効率が非常に良く、長期の運転が可能である。
だが、それでも燃料を積んでいくということには変わりないし、
また秒速数十キロ台の速度では、恒星間を飛行するにはまだまだ遅すぎる。
ということで発想の転換をしたのがこのレーザー推進だ。
光であるレーザーをあて加速するので理屈上は光速近くまで加速することもできる。
また外部的に押してもらうので自前で燃料を持つ必要がなく大幅に軽量化できる。
その速度は、計画では100 million miles an hour、光速の15%ほどになる。
これなら恒星まで行くには実用的な速さである。
ところで、レーザー照射装置の設置場所はどこになるのか?
これは当然、大気による乱れや減衰のない宇宙空間に置くのがいいはずだ。
だが計画は地上、アルマ望遠鏡があるアタカマ砂漠のような高地に設置するとしている。
大がかりな装置を軌道に打ち上げるというのが困難なことと
補償光学という、大気の乱れの影響をほとんど受けないようにする技術があること、
そして、おそらくこれが一番大きな理由かもしれないが
軌道兵器に転用されかねないとの懸念を排するため、ということのようだ。
○ソーラ-セイル
実はそのアイディアは古く、ロケット工学の父とも言われる、
ロシアのツィオルフスキーなどが1924年ごろ提案したのが始まりだ。
NASAは1990年代後半からこのソーラーセイルの研究を進め、
2010年に最初のソーラーセイル試験機を地球周回軌道に上げている。
さらに2018年には、ニア・スカウトというソーラーセイル探査機による
地球近傍小惑星1991VG探査も予定しており、
それによれば太陽光だけで秒速29キロ近くまで加速できるという。
日本でも2010年に金星探査機あかつきと一緒にイカロスを打ち上げた。
イカロスも太陽光を受けそれを推進力として進むというもので
昨年5月の段階で地球から1億キロ以上離れた所を航行中だ。
~現在は、一辺40mの帆を持つ次期ソーラーセイル計画が進行中~
4.3光年の彼方にあるαケンタウリへの旅、スターショット計画が
順調に進んだとしても残り50年はかかる。
さて、50年後の我々は、そこにどんな姿を見られるだろう?
●ニュートリノ振動
梶田隆章氏だ。報道されたお二方のコメントが実に対照的で印象に残った人も多いだろう。
大村氏は、人のために少しでも何か役に立つことを微生物の力を借りて何かできないか、と。
梶田氏は、この研究は何かすぐに役に立つものではなく人間の知の地平線を拡大するような、と。
物理学の特に素粒子分野は自然の仕組みに迫る基礎的研究、もともと役立つという要素は少ない
と思うのだが、それでも何の役に立つのかと報道陣から質問が出ていたのはおもしろい。
しかし、気持ちはわかる。ニュートリノに質量があることが分かった。そして宇宙の成り立ちに
迫る・・・。と、言われても普通は???で、何が何だかよくわからない。
だいたいニュートリノ自体、得体が知れない。微小で目にも見えず、楽々と地球をもすりぬけて
しまう!、まるで幽霊のような粒子??。
○原子
中性子があり、その周りをーの電気を帯びた電子が回る。これがお馴染みの原子のイメージだ。
だが、この陽子、中性子は基本的な粒子ではなく、クオーク3個が結合してできている。
ところで、陽子は非常に長寿命で10の34乗年もの寿命があるそうだ。何と宇宙の年齢より長い!。
一方、中性子は単独では不安定で15分程度の寿命しかない。電子(放射線)とニュートリノを
出して陽子に崩壊する(=高校物理で習うベータ崩壊という現象)。
と、ここで初めてニュートリノ(この場合は反電子ニュートリノ)という粒子が登場する。
○ニュートリノ
ベータ崩壊の研究などからその存在が予言されたのだが、発見はだいぶ後になってからだ。
この素粒子には個々の状態を表す量子数というものがある。質量や電荷(+-)、スピン(自転
のようなもの)などである。ニュートリノは電荷ゼロ、スピンは左巻きのものしか観測されず、
質量はゼロとされていた。中性なので周囲のものから電気的な力を受けない。
受けるのは’弱い力’(名前の通りのほんの小さな力、電気的な力の千分の一ほどの強さ)で、
その働く距離は原子サイズの1億分の1しかないという超短距離にしか届かない力だ。
ニュートリノから見れば、原子といってもスカスカの広大な空間だ。電気力は働かないし、弱い
力も全然届かない。これなら地球を簡単にすり抜けてしまうというのも分かるだろう。
○身の回りにたくさんあるニュートリノ
先ほどのベータ崩壊のほかに、太陽中心部の核融合反応でも発生している。陽子が4つ集まって
ヘリウムができる。その際に、膨大なエネルギーとともに電子ニュートリノが放出され、それが
地球にまで到達しているのだ。
また宇宙からやってくる宇宙線が地球大気と衝突したときも、最終的にニュートリノとなって
絶えず地上に降り注いでいる。このほか、星の最終段階、超新星爆発でも膨大なニュートリノが
発生して宇宙空間に放出される(その検出で何年か前ノーベル賞を受賞したのが小柴先生)。
さて、このように我々は絶えず膨大なニュートリノに曝され、それが体の中を突き抜けている。
そう考えると、ニュートリノがほかのものと反応しなくて本当によかったと思うだろう。
○変身するニュートリノ
以前にあった。中心部での核融合反応が休止しているのではとか太陽モデルに誤りがあるのでは
とか言われたが、最終的に、太陽からやってくる電子ニュートリノが途中で他のニュートリノに
変わっているようだということになった。
宇宙線による大気シャワーでも同じ。上空からやってくるニュートリノの数を調べると地球の
裏側から地球を通り抜けて観測されるニュートリノの数が異なる。こちらも、地球を抜ける間に
ほかのニュートリノに変わっていることが原因らしい。
このニュートリノの変身という現象、波のように周期的に繰り返されるのでニュートリノ振動
と呼ばれており、理論的に予測されていたそうだ。で、ニュートリノ振動の検出実験というのも
行われてきた。今回のノーベル賞で知られるようになった岐阜県神岡のスーパーカミオカンデ~
筑波の高エネルギー加速器研究機構(KEK)間での実験、欧州原子力研究機関(CERN)~
グランサッソ研究所(イタリア)間などでの実験でも、ニュートリノ振動が検出されたのだ。
○ニュートリノ振動
これって我々から見れば大したことなさそうだが実はとても重要だとか。なぜならニュートリノ
振動は、ニュートリノに質量があるということを示す証拠となるからだ。もし、ニュートリノの
質量がゼロなら電子ニュートリノはずっと電子ニュートリノのまま、変身することはないという。
では今、ニュートリノについて、どのように考えられているのだろう。
ニュートリノは全部で3種類(電子・ミュー・タウニュートリノ)ある。これをニュートリノの
フレーバーという。用語が分かりにくいが、ここでは単に種類の意味と覚えておくことにしよう。
もう一つ、ニュートリノは質量からも、m1、m2、m3と3つの固有状態があるとされる。
ただ、m1~m3各々の値、どれが軽くどれが重いのかなどはまだ分かっていないという。
ここでフレーバーから見て、質量はタウ・・>ミュー・・>電子・・と、タウニュートリノが
一番重いようなのだが、実はやっかいなことがある。それは、タウニュートリノの質量ならm3
などと1対1の関係になっているのではなく、m1、m2、m3の3つの固有状態がある比率で
混合したものとされているのだ。電子・・も、ミュー・・も同様でそれぞれm1、m2、m3の
混合状態と考えられている。これでは分からない、??なので身近なものに当てはめてみよう。
ニュートリノのような素粒子は、粒子としての性質と波としての性質を併せ持っている。
波と考えるならm1~m3の3つ質量状態の異なる波は振動数や伝わる速度も異なるだろう。
そんな3つの波が伝わると、強め合ったり打消しあったり、うなりが生じるはずである。
あるニュートリノの飛行シーンを考えると、飛行中にうなりによって波の位相や振幅が周期的に
変動することになる。これは結局フレーバーが変わるということにならないだろうか?
これが、飛行中ニュートリノの種類が周期的に変わるという現象として観測されることになる。
ニュートリノ振動∽ニュートリノ質量、身の回りの世界とまったく違う不思議な世界だが、
こう考えると何となく納得できるだろう。
○ニュートリノと宇宙
この宇宙は、目に見えない何かで満ち溢れていると聞いたことがあるだろう。
星や惑星、ガスや塵などの目に見える物質は宇宙全体の4%ほどしかなく、残りは目に見えない
何か(ダークマター)と、見えないエネルギー(ダークエネルギー)だという。
小質量の褐色矮星や星の終焉の姿、白色矮星やブラックホールなども、この見えない何か、
ダークマターの候補に挙げられていたが、これだけでは足りない。他の何かということで、
挙げられたのが、質量を持つニュートリノだった。だが、想定される質量では軽すぎるとか、
宇宙の大規模構造と合わないなどの理由で、ダークマター候補としては今は否定的だ。
だが、ニュートリノの質量の有無は初期宇宙の広がる速さや、密度むら(密度揺らぎという)に
影響する。高速で飛ぶニュートリノは密度揺らぎの成長を遅らせたり、そのサイズを大きくする
などの影響を与えると考えられている。
また実は素粒子には反粒子というものがある。宇宙誕生の時には粒子と反粒子が同じ数だけ
あったと考えられているが、現在の宇宙には反粒子はない。ニュートリノの質量という問題は
これらの謎の解明にも役立つとも言われている。
●重力波
検出を目指す と話されていたこともあるので一度は聞いた言葉だと思う。
しかし、肝心な内容となるとほとんど???だろう。
重力波とはどんなものなのか その観測とはどういうことか、簡単にまとめてみよう。
○アインシュタインの相対性理論で予言された重力波
それを記述したのがニュートンの万有引力の法則だ。
そのおかげで我々は、遥か遠い惑星の世界まで探査機を送りこむことができるようになった。
このようにとても有効なニュートン力学だが、 どうしてモノの間に引力が働くのかはわからない。
それはとりあえず横に置いての法則だといえる。
これに踏み込んだのがアインシュタインの相対性理論だ。
相対性理論では、光速度一定ということを基として時間や空間は、
別個の絶対的なものではなく 時空として互いに関連し変化するものとしてとらえる。
そして重力は時空を歪め、それが引力として見えるのだと考える。
ピンと張ったゴムシートの真ん中に鉄球を乗せたら窪む、そんなイメージだ。
ゴムシートがゆがんだ空間にあたる。
そばに小さな鉄球を置くと、窪みの中心に向かって転がり落ちる。
窪みにそって転がすと、真ん中の鉄球を中心に回転する。
これがモノが落ちたり、地球の周りを月が回る重力として見えるというわけだ。
そして重力波とは、その空間の歪みが波のように 回りに広がっていく現象で、
重力源であるモノが動くときに 発生し、光速で伝搬すると考えたのである。
○とらえにくい重力波
それは重力波が物質にほとんど影響を与えず通過してしまうからだ。
ふつう見ると、とても強そうに感じる重力なのだが
電磁力や原子を閉じ込めている力(強い力という)に比べると 桁違いに弱い。
電磁力と比較してみると何と38桁もの差があり、 まさに桁違いの弱さだ。
そのため周囲への影響は極めて微弱でモノにほとんど影響を与えない。
そんな重力波を直接とらえるにはどうしたらいいか、これが問題だ。
ところで、このようにとらえにくい重力波なのだが、
存在するということだけは間接的ながら既に立証されている。
それは連星パルサーと呼ばれる天体によってだ。
この宇宙には、小さいが極めて高密度の星~中性子星~が2つ、
連星となって互いに回りあっているという世界がある。
で、その公転周期を調べると、だんだんと短くなっていた。
この原因とされたのが重力波だ。高速回転する連星系から重力波が
放出され、そのことでエネルギーを失い接近、公転周期が短くなる
とするとちょうど計算が合うということから立証されたのだ。
(連星パルサーを発見した米国の天文学者テイラーとハルスは1993年ノーベル賞を受賞)
もう一つ、直接とらえたという論文が出されたこともあった。
2014年3月、重力波の観測のためにアメリカの大学などが
南極に設置し観測しているマイクロ波望遠鏡BICEP2で
インフレーション起源の重力波を捉えたというニュースが流れ 大きな話題となったことがある。
ただ、その観測だけでは まだ不十分で、重力波によるものかどうかわからないという。
その後どうなったか現時点では情報がない。
○重力波の直接検出
とらえにくい重力波を検出するにはどうすればいいか?
                    それにはまず効率的に重力波を発生するような現場を探すことだ。
                    その現場とは、強い重力場が激しく時間変動するようなところで
                    そんな場所からは大量の重力波が放射されるという。
                    となると地球上では無理なので、ターゲットは宇宙となる。
                    具体的にはブラックホールができる瞬間、
                    中性子星やブラックホールからなる連星が一つに合体するとき、
                    大質量星が重力崩壊し超新星爆発をおこすとき、
                    扁平な中性子星が高速回転しているとき、 宇宙誕生のときなどがそれである。
                    それらによって、振幅の大きな、さまざまな振動数の重力波が 発生し光速で伝搬していく。
                    振動数は現象によって異なり 10ヘルツ/秒から10000ヘルツ/秒ほどになるという。
                    波長に換算すると、3万キロから30キロ。 これは電波などと比べても桁違いの長波長である。
                    宇宙誕生時の重力波などはその後の急速な宇宙膨張によって
                    ~インフレーション~今では波長が10億光年にもなるとかで あまりに長すぎて想像もつかない。
                    では、こんな重力波の検出方法をどうするかだ。
                    重力波の通過により空間はわずかに歪む。円形に取った空間が
                    歪んで楕円になるというようなものだ。波は一山だけではないので
                    この歪みは振動するように繰り返されることになる。
                    ということなら重力波の観測自体は単純ですみそうだ。
                    縦横にクロスさせるように配置した2点間の距離を測れば
                    重力波の通過による空間の歪みで長さが変動して見えるはず。
                    ~重力波が通過すると片方は空間の歪みで長さが伸び、 他方は縮んでみえる。
                    次に他方の長さが伸び、 片方は縮んでみえるというように変化するという~
                    そして、この偏移の仕方が計算通りになっていれば
                    ~ほかからの影響が皆無として~
                    確実に重力波を検出したと言えるようになるだろう。
                
●惑星大移動
知っての通り、木星は太陽系最大の惑星である。
                直径比で地球の11倍もの大きさを持ち、分厚いガスをまとい、
                太陽から5天文単位(地球~太陽間の5倍)離れた遠方の地にいる。
                ~惑星の並びは、太陽から、水金地火木土天海(冥)~
                ところがこの木星、今でこそこんな遠い場所を回っているが
                かってはずっと太陽に近い場所にいた可能性があるというのである。
                これまで、京都モデルと呼ばれる太陽系形成理論が支持され、
                惑星はそれぞれ今いる場所で生まれ進化したと考えられていたのだが、
                近年のスーパーコンピュータなどによるシミュレーションで、
ダイナミックに変動する巨大惑星の姿が浮かび上がってきたのである。
〇太陽系形成理論(京都モデル)~その場形成説
1985年に京大の林忠四郎グループにより提唱されたもので、
              太陽系惑星の生成過程を最もよく説明できる標準理論とされている。
              その概略は
              ①ガスやチリが集積した原始太陽系円盤形成~中心は太陽になる
              ②チリなどの固体成分が集積合体し沢山の微惑星ができる
              ③微惑星同士が衝突合体し、原始惑星ができる 
              ④原始惑星同士が衝突合体し、惑星に成長する
              ・円盤の内側は集積度が大きく惑星は早く成長できる 
              外側は集積度が小さく惑星の成長には時間がかかる
              ・内側は熱い、ガスや水は蒸発飛散し失われる
              外側は寒冷、水は凍り、氷も惑星材料として使える
              ・内側は太陽の強い重力の影響で集積が阻害される
              外側は太陽の重力の影響は受けず集積が続く
              氷も材料にして巨大化し、周囲のガスを吸着
              ⑤原始太陽系円盤消失
              ・最外縁部は氷も材料に巨大化するが、成長は遅い
              ガス吸着する前に円盤そのものが消失
              ⑥現在
              ・太陽近傍は水星・金星・地球・火星という岩石質の小型惑星
              ・外縁部には木星・土星というガスに覆われた巨大ガス惑星
              ・最外縁部には氷に覆われた巨大氷惑星
              このように京都モデルは、
              太陽からの距離(温度差~)による惑星材料の違い、
              惑星の成長速度の違い、太陽重力の影響など考慮した理論で
              現状の太陽系惑星の姿を非常にうまく表している。
              木星などの巨大惑星は太陽から遠く離れた低温領域で生まれ
その場で大きく成長したと考えられるわけである。 
〇N体シミュレーション~計算機の中の惑星形成
惑星がどのようにでき進化したのかを調べるには
                N体シミュレーションという手法が使われる。辞書を引くと
                これはN個の粒子で構成された系の運動方程式を数値積分し、
                その時間発展を調べるというものだそうだが(???)、
                原始太陽系の場合でいうなら、円盤内を回る膨大な数の微惑星が、
                重力で互いにどのように相互作用するのかを求めるという話になる。
                ここで微惑星2個の場合、その運動方程式は普通に解けるのだが
                3個以上の場合は解析的に解くことができないとされ・・
                ~多体問題という。世紀の難問、ポアンカレ予想で有名な
                ポアンカレが証明した~。
                そこで、まず2個の微惑星間に働く重力を計算し、
                微惑星がどのように動くか求め、それを全ての微惑星について
                繰り返し行い、時間を追ってその変化を見るという風にする。
                ただこのとき、その計算量は微惑星数Nの二乗に比例するため
                サンプル数を大きくとるほどまさに桁外れの膨大な量となり
                スーパーコンピュータが必要とされるというわけである。
                さて、このように京都モデルをもとにシミュレーションを
                行っていくと、いくつかの問題点が見つかった。
                地球などの惑星は早くできるのだが、木星など外側の惑星は
                太陽系の年齢内ではそこまで大きく成長できないというのだ。
                また原始惑星が成長すると周りのガスの抵抗で公転速度が落ち
                太陽に向かって落ちていってしまうのである。
                この外惑星の成長問題、太陽落下問題は、
                (シミュレーションの初期条件のとりかたにもよるのだが)
                京都モデルに課せられた課題とも言えるだろう。
                そして、これに更に付け加わってきたのが
              京都モデル時代には無かった系外惑星発見という事実である。
〇系外惑星の発見と外側移動説
   
          
              1995年、ぺガスス座に最初に発見された太陽系外惑星は
                木星ほどの巨大惑星で、主星の回りをわずか数日で公転、
                極めて主星に近接した場所を回る巨大惑星という、
                今の太陽系の姿とは似ても似つかない世界だった。
                だが、その後続々と見つかる系外惑星も
                ~系外惑星の検出手法も影響し~
                ホットジュピターと称される主星に隣接した巨大惑星で、
                このような惑星系が宇宙では少なくないということが
                分かってきたのである。さてこうなると、
                木星のような巨大ガス惑星は円盤部の外側でできたという
                標準理論は見直しをせまられることになる。
                巨大惑星は主星のすぐそばでもできる?というわけである。
                だが、太陽系ではそうなっていない。なぜか?
                ここから出てきたのが、原始惑星は内側ででき~密度が大なので
                早く作れる~徐々に外側に移動するという外側移動説である。
                これなら巨大惑星形成への時間的な制約は回避できるし、
                多くの系外惑星の世界の実情にも合致している。
                この説をもとに様々なN体シミュレーションが行われている。
                国内でも「富岳」の一世代前のスーパーコンピュータ「京」を使った
                N体シミュレーションが行われ、その結果が公表されている。
                一例として、原始太陽系円盤の内側でできた原始惑星が、
                周囲の微惑星と重力相互作用を起こし微惑星の角運動量を獲得、
                それにより外側へ移動していくという結果も得られているという。
                これと同様の計画は富岳でも考えられ、より現実に即した
                条件下でのシミュレーションも遠くないはずである。
                ~ホットジュピターの成因については諸説ある。
                最初から主星の近くでできたというその場形成モデル、
                外側でできたものが中心近くに移動したという惑星落下モデル、
                3個以上の巨大惑星が互いの重力で軌道を乱し、その結果
              中心近くに移動したというスリングショットモデルなど。
〇カオス的な惑星世界
   
              
              巨大な惑星が軌道外へ動くというのは思いもよらない話だが
                太陽系初期はもっとカオス的で、起きて当たり前の現象だっただろう。
                太陽系の歴史で惑星大移動があったという話もいくつもある。
                たとえば地球が地球として壊されず存在できたのは、
                木星が内外に大移動して他の天体を弾き飛ばしてくれたからとか、
                木星の移動で太陽のすぐそばにあった天体が太陽に落ち込んだとか、
                木星の移動で火星が大きく成長できなかったとか、
                また。ごく最近(2019年)の研究では、
                木星軌道の外側で形成された小惑星(D型:始原的小惑星)が
                木星などの巨大惑星の内外への動きにより
                現在の小惑星帯~火星と木星との中間~まで移動したとするなど、
                惑星大移動を示すような研究や仮説がしばしば報じられている。
    
               
           宇宙と生命 
                          
                    
 地球にはおよそ870万種の生物がいるとされ(2011年推計)、生命の星とも称される。
              だが、生命がいつどのようにして生まれたのかはまだ定かではない。
              岩石中に残された痕跡から、40億年前には最初?の生命が現れたと考えられているが、
              生命の元となったものがどこから来たのかについては、2つの説がある。
              ユーリー・ミラーの放電実験(Urey・Miller1953年)をその典型とする、
              地球の原始大気・原始海洋の中で合成されたというものと、
              (~近年は生命発祥の場を海洋底の熱水噴出孔などに求める~)
              小惑星や彗星などの小天体が地球に生命材料をもたらしたというものである。
              (~生命体そのものの起源を宇宙に求めたパンスペルミア仮説もある~)
              近年の探査でこれらの天体には水や有機物があることが分かっていたが
              この1月、 ESO(欧州宇宙機関)・ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)は、
              ALMAと彗星探査機ロゼッタの探査から、生命のビルディングブロックであるリンが
              星形成領域で作られ、彗星を通してもたらされたという可能性を示し話題となった。
              リンはDNAなどにも含まれる生命にとって非常に重要な物質である。
              その由来を明らかにできたなら生命の起源探求への大きな一歩となるだろう。              
〇生命のビルディングブロックの旅
初期の宇宙には水素・ヘリウムなどの軽元素しかなく、生命の元となるような元素は存在しなかった。それら重元素はすべて星の中で作られたものである。
超新星爆発などで宇宙にまき散らされた重元素が地球に取り込まれ
生命誕生につながったと考えられるが、その道筋については推測の域を出なかった。
これに一つの観測的裏付けを与えたのが今回のESO・ALMAによる発表である。
以下esoサイトから **eso2001-Science Release
Astronomers Reveal Interstellar Thread of One of Life’s Building Blocks
- ALMA and Rosetta map the journey of phosphorus 15 January 2020**
発表内容は以下のようなものである。
生命のビルディングブロックの一つとして重要なリンが、地球にどのようにもたらされたかを探るため
イタリア国立天体物理学研究所ビクトル・リビラを中心とした国際チームは、
ALMAとロゼッタによる星形成領域、彗星それぞれのリンを含む分子についての詳しい解析を行った。
ALMAが観測したのはぎょしゃ座にある大質量星形成領域AFGL5142。
その高い解像力を利用してリン含有分子の種類や生成場所などを特定しよういうものである。
分析の結果この領域では、原始星からのガスの流れで原始星を囲む星雲内に空洞ができていること、
空洞壁面では、原始星からの強い放射や衝撃波を受けてリン含有分子が生成されていること、
リン含有分子の中で最も多いのは一酸化リン(PO)であること、などが明らかになった。
大質量星形成領域では、その形成初期から多量のリン含有分子を作り出していたのである。
この結果を受け行ったのが彗星のリン含有分子の探索である。
大質量星で生成されたリン含有分子を含むガス雲から次の世代の星が生まれるとき、
冷たい外縁部ではリンが凝縮、彗星に取り込まれる可能性がある。そのつながりを見ようというものである。
ロゼッタが観測したのはチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星C67P。
2014年2月から2年間彗星と並走し、彗星コマ(彗星頭部を囲む)の分光データなどを取得。
これまでの分析ではリン含有分子の兆候は見られていたが、それが何かは特定できていなかった。
今回、新たにロゼッタの分光計ROSINAデータを分析した結果、それが一酸化リンだと分かり、
ALMAの結果とあわせ、星形成領域と彗星、惑星を結ぶリンの道筋が明らかとなったのである。
〇リン-P
この宇宙では水素・ヘリウムが最も多く、全体の99%を占める。残り1%が残りの全元素である。そのなかで多いのは酸素・炭素・ネオン・窒素という順番となるが、リンはこれらの元素よりも2桁も少ない。
一方で、生命体のリンの量は、宇宙での存在比よりも数桁も高いという。
このように宇宙では微量なリンがどのようにして地球に届き、生命のビルディングブロックとして利用されたのか
大きな謎だったが、リビラチームは観測的裏付けのもと、その1つの可能性を示したのである。
リビラらの論文は2020年2月の王立天文学会月報492巻1号(オックスフォード大出版局)に
ALMA・ROSINAによるリン含有分子検出;星形成領域と彗星とを結ぶ星間の糸として公開されている。
以下、Oxford Academicサイトから
(**Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
ALMA and ROSINA detections of phosphorus-bearing molecules:
the interstellar thread between star-forming regions and comets
V. M. Rivilla et al. **)
以下、概要
ALMAにより得られた星形成領域AFGLの姿は中心部に大質量原始星があり、
そこから上下にガスが噴き出て大きなV字状の空洞を作っている。
分析はリン含有分子のPN(リン―窒素)とPO(リン―酸素)で行われ、
それぞれがどのように外部へむけ放出されているのかを解析した。
(放出分子にはこのほかSOなども観測されている)
結果、PN、POは、空洞内の上下方向の双極流中のいくつかの低速ガススポットから放出され、
その大部分の低速ガススポットでPOがPNより多くなっていること。
PO/PN比は中心の原始星からの距離の関数として増加していることなどが分かった。
そしてこのデータから、リンは原始星からの衝撃波によりダスト粒子表面から跳ねだされること、
またPO・PNは原始星の紫外放射により空洞壁面に効率的に形成されることなどが明らかとなった。
チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星C67Pについては、
(近年の分析からC67Pは非熱物質を含む原始惑星系円盤の一部だとされている)
ROSINAデータのPO・PN分析からは、PO/PN比>10とPOが一桁多くなっていることが分かり、
POは彗星のリンの主要な運び手としての役割を担っていることが確かめられた。
またこのPOは太陽誕生以前に彗星の氷中に閉じ込められたものであるとの確認もされている。
このように、大質量星等を起源とするリン含有分子を含むガス雲の中で生まれた原始太陽系では
太陽誕生前に既に豊富にリンが存在し、それがPOとして彗星に取り込まれ(彗星の化学組成は環境に依存)、
その彗星により多量の生命の原材料が地球にもたらされたということになる。
〇炭素-C
前記したとおり、宇宙では比較的豊富な炭素も重要な生命のビルディングブロックの一つである。炭素原子は4つの結合の腕を持ち、水素や酸素と結合し複雑な有機物を作りだす。
リンはリン酸としてDNAなど生命活動をつかさどり、炭素は有機物として生体を構成すると言ってもよいだろう。
この炭素質物質(有機物)に関してはハレー彗星でその存在が確かめられ、
後いくつもの彗星でも検出されていることから、リン同様、有機物の起源を彗星と考える見方がある。
上記のチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星でも2015年のロゼッタの探査で有機物が検出されており
探査機による直接的なデータという点では、有機物の運び手をより確からしく示したものと言えそうである。
探査は ロゼッタの着陸機フィラエにより行われ、限定的ではあるが彗星の地表データを得ることができた。
結果、それまで見つかっていなかった4種を含む全16種もの有機物(メタン・シアン化水素・一酸化炭素
メチルアミン・アセトニトリル・イソシアン酸・エタノール・エチレングリコールほか、水も)が検出されている。*
**Goesmann F et al (2015) Science 349(6247)**
では、炭素はもともとはどこからということになる。これも(先代の)星であることは間違いない。
同彗星で検出された有機物を構成する炭素は、隕石(炭素質コンドライト)中の炭素と類似するという。
いずれも原始太陽系星雲で形成されたと考えられているが、彗星は隕石~小惑星のかけら~のような
熱による変性を受けておらず、より始原的な状態での炭素を留めているものと思われている。
これに関連し、昨年のことだが目を引いた記事がある。
彗星の中には通常より高温の領域で形成されたものがあり、それにより複雑な有機分子が作られているという。
これは、JAXA・京都産業大・国立天文台などの共同研究チームが2019年11月に発表したもので、
~ジャコビニ・ツィンナー彗星から複雑な有機物由来の赤外線輝線バンドを検出~との見出し。
天文愛好家には馴染みの深いジャコビニ・ツィンナー彗星に複雑な有機物があったというものだ。
その概要は
2005年すばる望遠鏡により得られた彗星のスペクトルを詳細に分析し、これまで見られなかった
未知のスペクトル線を発見。これが高温の環境で作られる複雑な有機物であることが分かった。
ジャコビニ・ツィンナー彗星は、ほかの彗星に比べると揮発性の分子が少ない。
しかしケイ酸鉱物はほかの彗星と同じように存在している。これらの観測結果をあわせ、
ジャコビニ・ツィンナー彗星は、原始太陽系星雲中の巨大惑星を囲む円盤中で形成されたと結論付けた。
このような領域は密度や温度が高く、複雑な有機物が作られやすい。
こうして多様で複雑な有機物が生成され、同彗星に取り込まれたのだとしている。
〇おわりに
              以上のように宇宙では、リンや有機物など実に多くの生命のビルディングブロックが作られ、
              彗星が(小惑星も)その運び手としての役割を担ってきた。だが、材料がそろっているだけでは
              生命体とはならない。地球生命史では38~40億年前最初?の生命誕生、後かなりの時間をおき
              10億年ほど前にやっと多細胞生物が誕生したとされている。これをもととするなら、生命が生まれ
              それがいかにも生き物らしい形をとるのに億オーダーの時間がかかるということになる。
              天文の世界同様、生命というくくりも何とも気の長い話である。
              
              
                   
●月面探査
1969年7月20日、人類が史上初めて月に降り立ってから半世紀以上が過ぎた。アポロ11号の月面着陸のTV中継をリアルタイムで見た記憶があるのは、
今や60代後半以上の世代。
月がどんな世界かは当時もよく知られ、未知への旅というわけではなかったが
人類未踏の地へ降り立ったという高揚感は、ボケたような中継映像からでも
十分に伝わってきた。
ここであらためて月探査への道のりを振り返ってみると、
一連のアポロミッションは、時代背景も合わせ挑戦の連続だったと言えよう。
そしてまたあの時代だからこそ実現できたと言えるのかもしれない。
秋は月見の季節、空に光る月でもながめつつ、アポロの足跡を辿ってみたい。
〇米ソの宇宙開発競争
アポロの月探査の話題で欠かせないのは米ソ2国間での激しい宇宙開発競争である。当時冷戦下にあった両国は国家の威信をかけて宇宙に挑み、
まさに抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げていた。
その最たるものが、ケネディ(J.F.Kenedy)大統領が1962年9月に行った有名な演説
~我々は月を目指す We choose go to the moon.~の件(くだり)で、
前年61年5月の有人月探査計画予算を求める議会でも、
アメリカは60年代のうちに人を月に送り込み、無事帰還させると演説を行っている。
40代のこの若き大統領は、旧ソ連に大きく水を開けられていた宇宙開発競争に
月を目指すという明確な目標と期限とを定め挑むことを宣言。
それからわずか8年後には最初の人類が月に立ち、文字通り足跡を残すことになる。
以下、米ソ宇宙開発競争の主な流れを示す
1957年10月 世界初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げ成功/旧ソ連
1957年11月 ライカ犬を乗せたスプートニク2号の打ち上げ成功/旧ソ連
1958年01月 人工衛星エクスプローラ1号の打ち上げ成功/米
1958年10月 NASA(アメリカ航空宇宙局)設立/米
1958年05月 大型人工衛星スプートニク3号の打ち上げ成功/旧ソ連
1959年09月 ルナ2号月へ到達(晴の海に衝突)/旧ソ連
1961年04月 ボストーク1号世界初の有人地球周回軌道飛行(ガガーリン)成功、
飛行108分/旧ソ連
1961年05月 マーキュリー3号有人宇宙飛行(アラン・シェパード)成功、
飛行15分/米
(1961年05月 ケネディ大統領の月面有人探査への議会演説)
1961年08月 ボストーク2号25時間の有人周回軌道飛行(ゲルマン・チトフ)成功/旧ソ連
1962年02月 米初のフレンドシップ7有人周回軌道飛行(ジョン・グレン)成功/米
1963年06月 ボストーク6号世界初の女性宇宙飛行士(ワレンチナ・テレシコワ)/旧ソ連
1964年10月 3人乗り宇宙船ボスフォート1号成功/旧ソ連
1965年03月 ボスフォート2号世界初の宇宙遊泳成功(アレクセイ・レオーノフ)成功/旧ソ連
1965年03月 2人乗り宇宙船ジェミニ3号成功/米
1965年06月 2人乗り宇宙船ジェミニ4号宇宙遊泳成功(エドワード・ホワイト)/米
1966年02月 無人宇宙船ルナ9号世界初の月面着陸成功(嵐の海)/旧ソ連
略 1968年12月 アポロ8号世界初の有人月往復飛行成功~サターンⅤ型ロケット/米
1969年07月 アポロ11号世界初の有人月面着陸成功~サターンⅤ型ロケット/米
スプートニクショックと言われるとおり、
「世界初の人工衛星」でソビエトに先を越されたアメリカの衝撃は大きかった。
その後の動物を乗せた人工衛星実験、有人宇宙船による地球周回飛行、女性宇宙飛行士の搭乗、
宇宙遊泳、複数搭乗の大型宇宙船など、ことごとくソビエトの後塵を拝すことになり
アメリカの劣勢は誰の目にも明らかであった。
その起死回生の一手と言えるのが「世界初の有人月面探査」という目標だったのだろう。
もともとアポロ計画は、前大統領アイゼンハワー時代からの構想だったのだが、
その明確な達成期間を示すことで、米国の宇宙開発を加速させる原動力としたのである。
〇ライバル
米ソのロケット開発に大きな役割を果たしたのは皮肉なことにロケット兵器だった。第2次世界大戦でロンドン空爆に使われたドイツの弾道ミサイル、V2ロケットの技術が、
終戦後開発した技術者たちとともに米ソ両国に渡り、
その技術を応用して新たなロケットが作られることになる。
ここで米ソ両国にはそれぞれ、ロケット開発の中心となった人物がいた。
米はフォン・ブラウン。ドイツから米国に移り住んだV2ロケット開発の中心人物である。
V2の技術をもとにジュピターCロケットを作りエクスプローラー1号の打ち上げに成功。
その後、マーシャル宇宙飛行センター所長など歴任し米の宇宙開発を牽引することになる。
ソ連はセルゲイ・コリョロフ。同様にV2ロケットの技術を受け継いだ技術者で
1950年台に大陸間弾道ミサイルを次々と開発。
そして、これをもとにしたスプートニクロケットで世界初の人工衛星を打ち上げ、
その後のガガーリンの有人飛行なども成功させ、ロシア宇宙開発の父とも称されている。
しかし、コリョロフの存在は当時のソ連では秘密のベールに隠されており、
米側の開発競争の当事者、フォン・ブラウンも知ることがなかったという。
〇月探査への道
前記のとおり月への無人探査機送り込み(1959年)も旧ソ連が先行している。これはソ連のロケットが、クラスター方式という
既存のロケットエンジンを複数束ねる形式をとっていたためで、
その分簡単にロケットの推力を高めることができたからである。
だが月への有人飛行では、新しく開発するN1ロケットには、
30機ものエンジンを束ねなければならず、そのため非常に複雑な制御が必要で
それが仇となり、結果開発は非常に難航。
また推進役だったコリョロフが1966年1月に死亡するなどもあり
ソ連の月への有人探査は結局挫折することとなった。
一方米国では、有人月探査を目指すアポロ計画が1961年からスタート。
そのため開発されたのが現在でも最大規模の巨大かつ強力なロケット
サターンⅤ型ロケットである。
フォンブラウンの指揮のもと開発された液体燃料使用の三段ロケットで
その大きさは高さ110m、直径10m、重量2700トンほどにもなる。
このサターンⅤ型ロケットでは、本体部分の開発だけでなく、
IBM開発の自動制御装置や乗員の安全を守る安全装置を備えるなど、
後のロケット開発の範ともなるもので、これら技術資料は公開され、
現在でも民間ロケット開発のための貴重な資料となっているという。
最初のサターンⅤが打ち上げられたのは1967年。
そして1968年、宇宙飛行士3人を乗せ、月の有人探査がスタートする。
*アポロ8号
1968年12月21日打ち上げ、帰還12月27日。
月までの往復飛行。月面上に浮かぶ青い地球の姿を撮影。
*アポロ11号
1969年7月16日打ち上げ、帰還7月24日
月面着陸7月20日、着陸地点 静かの海
アームストロング船長、オルドリン飛行士による岩石試料採取
*アポロ15号
1971年7月26日打ち上げ、帰還8月7日。
月面着陸7月30日、着陸地点 雨の海ハドリー山
月面車による探査とガリレオのピサの斜塔で行ったという逸話を
再現すべく、ハンマーと羽根の同時落下実験も演示。
*アポロ17号
1972年12月7日打ち上げ、帰還12月19日
月面着陸12月11日、着陸地点 雨の海タウルス・リットロー渓谷
アポロ最終ミッション
月面車による探査、地質学者ハリソン・シュミットも乗員として参加。
研究者の目で100キロ以上もの岩石サンプルを採集。
〇アポロの成果
アポロ最大の成果は400㎏近くもの月の岩石を持ち帰ったことで、それがもととなり月の理解が一気に進んだことにある。
それまでは隕石としてしか手にすることができなかった他の天体のかけらを
素性がはっきりとした試料として直接調べることが可能となったわけで、
そこからは40億年前の隕石大衝突の痕跡の膨大なガラス質の残骸や
月に起こった火成活動を示す斜長岩などが見つかり、
更には月と地球の岩石との類似点・相違点も明らかにされることになった。
このアポロの月試料の研究は50年が経過した現在もなお続けられており、
年間数百件もの試料の分析が行われているという。
そしてこれらアポロによりもたらされた数々の知見は、
月の成因を探る上で重要な手がかりとなり、ジャイアントインパクト説など
後の月形成論に大きな影響を与えることになる。
またその成果は、科学面だけではなく技術面でも生かされている。
70年代のスカイラブ計画~宇宙実験室ではサターンⅤ本体が直接利用され、
スペースシャトル計画では、サターンⅤの開発で得た知見をもとに、
安全性の高い堅牢且つ軽量な機体を実現、
現在の民間によるロケット開発でも、公開されたアポロの技術資料が
その進展を後押しするなど、大きな影響を与えている。
そして今、月は再び注目を集めている。
それが米国が進めつつある月軌道プラットフォームゲートウエイ計画で
2020年代に月を周回する宇宙ステーションを作り、
そこを足掛かりに更に火星への有人探査を行おうというものである。
2024年までには月の南極側には恒久的な月面基地を作り、
そこで水やロケットの燃料を調達できるようにするという。
この計画には宇宙開発企業、欧州、カナダ、日本など参加表明しており
官民協力しての国際プロジェクトとなっていくだろう。
〇おわりに
今から半世紀以上前、人類が初めて宇宙へと飛び出した60年代、世界の人々は上空を通過する人工衛星の光点をこぞって探し
日本でも、各地で人工衛星観測用望遠鏡を覗き、その通過時刻を
測ろうとするなど、宇宙時代の幕開けを喜ぶ熱気にあふれていた。
アポロも、当初は国の威信をかけてというものだったかもしれないが、
最後は月を理解するというグローバルなものへと変わっていった。
今、再び月を目指すにあたって願うのは、
月を地上のような覇権争いの場としてはならないということである。
近い将来、月に降り立ち地球を仰げば、そこに陸地と海の境界は見えても
国境は見えない。それが本来の地球の姿である。
地上で月を仰げばなおさら、そこにはどんな境界も見えない。
●ボイジャーの旅
2018年の終わり、惑星探査機ボイジャー2号が太陽圏を離脱した。~太陽圏とは太陽から吹き出す高速の荷電粒子の流れ=太陽風の届く範囲~、
その距離は約177億キロ、地球~太陽間の100倍以上あり、
光でさえ伝わるのに16時間かかる。
太陽圏は彗星のような形状で、太陽の進行方向と逆側に長くたなびき、
ボイジャーはその頭部を抜け出たという形になる。
だがそこではボイジャーの旅は終わらない。
十分ではないがまだボイジャーの機能は生きている。
進む先にはオールトの雲と呼ばれる微天体の巣(長周期彗星のもと)が
あると考えられており、そこに達するまでまだ300年、
抜けるのにはざっと3万年はかかるという。
それでも隣の星にすら達することはない。星の世界は実に広大である。
打ち上げから約50年が過ぎ、
ボイジャーはNASAの宇宙探査ミッションで最長のものとなった。
だが太陽から遠く離れるため、2030年ごろには太陽位置の検出が困難となり、
地球との交信ができなくなると見られている。
以降ボイジャーは深宇宙への長い一人旅を続けることになる。
そんなボイジャーのこれまでの旅の道筋を追ってみる
○ボイジャーの旅程
・ボイジャー1号 打ち上げ 1977年9月5日木星最接近 1979年3月5日
土星最接近 1980年11月12日
太陽圏離脱 2012年
・ボイジャー2号 打ち上げ 1977年8月20日
木星最接近 1979年7月9日
土星最接近 1981年8月25日
天王星最接近 1986年1月24日
海王星最接近 1989年8月25日
太陽圏離脱 2018年11月5日
上に記した通りボイジャーは、1号・2号と双子の兄弟機だ。
打ち上げは2号が先行したが、木星に着いたのは1号が先で、こちらを1号と呼んでいる。
1号の太陽圏離脱は2012年と6年早く、この時も、人類の作った探査機が
初めて太陽系を抜けたと非常に話題になった。
(・・・ボイジャーの探査で一番印象に残っているのはむしろ土星最接近のとき。
このときは衛星中継をする~当時は珍しかった~ということで、
送られてくる土星画像をTVにかじりついて見ていた記憶がある。)
当初の計画ではボイジャーの運用期間は5年で、
木星・土星の探査を行うというものだったが、
(コンセプト段階での名称MJS~Mariner-Jupiter-Saturn)
これが無事に成功を収めたため、予算が追加され、さらに外界を目指すことになる。
それを可能にしたのは、(当時のNASAスタッフの先見の明ともいうべき)探査機の仕様で
木星の強大な磁気圏への防御対策・自律したコンピュータシステム・2020年まで
電源供給できる原子力電池・数十年分もの姿勢制御用推進剤・プラズマ観測装置、
荷電粒子装置、磁力計などの各種観測機器で、
これらがなかったらボイジャーの旅はここまで長くは続けられなかったし
太陽圏から抜けたことも分からなかったはずである。
ところで、ボイジャー2号の訪れた惑星を見ると太陽系の外惑星4つ全部である。
現在は、たとえば土星探査機カッシーニとか木星探査機ジュノー等々
個々の惑星を探査するというパターンが主なのに、どうして4つだったのだろうか?
答えはボイジャーの打ち上げられたタイミングと、そのコースにある。
実はこの時、外惑星探査の千載一遇のチャンスが巡ってきていた。
惑星直列という言葉を聞いたことがあると思うが
(文字どおり惑星が軌道上で1列に並ぶ)
この時期、探査機があるコースをとって飛び立てば
(惑星が一列に並んでいるかのように)
これらの惑星を順番に巡ることができるという配置を、
地球を含め各惑星がとっていたからである。
~もちろん一直線に並んでいたわけではない~
ボイジャーは惑星がこの特別な配列となるときをねらい(175年に一度のチャンス)、
定められたあるコースをとって飛行することで、このグランドツアーを可能にした。
○グランドツアー
地球から木星などの外惑星に行くためには太陽の強い重力に逆らって飛行することになり
探査機の運用に長い時間と膨大な燃料とが必要になる。
従って60年代の技術では、外惑星の探査は困難なものと受け止められており、
それを回避する効率的な飛行方法が求められていた。
~これは60年代の太陽系探査の歴史を見れば一目瞭然で、
探査機が送られたのは月や金星、
そして火星という地球から近い天体に限られていた~
この課題の解決に大きな役割を果たしたのは2名の若い研究者だった。
その一人がマイケルミノビッチ(Michael Minovitch)である。
数学を専門とした彼は、大学を卒業して間もない1961年にジェット推進研究所(JPL)で、
当時世界最高の性能を誇る計算機IBM7090を使い、
3体問題と称される問題の解法に挑戦。
~例えば太陽と惑星からの重力が小さな探査機の運動にどのように働くかを求める~
そして、惑星の重力を利用することで探査機のコースや速度を変える
新しい宇宙飛行の手法(フライバイ・スイングバイなどという)を考案、発表した。
これは公転する惑星から運動のエネルギーをもらい(探査機を振り回すようなイメージ)、
ほとんど燃料を使うことなく探査機の速度を上げることを可能とするもので、
これによりこれまでは困難だった外惑星探査への道が開かれることになったのである。
~この航法はマリナー10号(1973年)、パイオニア10、11号(1972~73年)で採用~、
もう一人は、グランドツアーの経路を求めたJPLのゲーリーフランドロ(Gary Flandro)だ。
NASAが外惑星探査を目的としてグランドツアー計画に取り組み始めた1964年、
木星・土星・天王星・海王星が1970年代後半に太陽の特定方向側に揃うというときを狙い、
この配列を利用して一機の探査機で全部の惑星を回れないかという課題を受け、
フランドロはその可能性を探るためにコンピュータシミュレーションを繰り返した。
そして算出された膨大なシミュレーションの中の一つが、ボイジャーの飛行コース グランドツアーだった。
さて、このような研究者たちの努力の結果、ボイジャーは1977年に外惑星への
長い旅のスタートを切ることになる。このときのボイジャーの速度は、
太陽系を脱するのに必要な速度(およそ秒速17キロ)には勿論達していなかった。
それが地球・木星・土星のフライバイをへる度に段階的に加速し、
それが今回の太陽圏離脱につながったということになる。
○太陽系の範囲
太陽系の広がりは一体どこまでと考えられるのだろう。チリやガスが集積してできた原始惑星系円盤から太陽や惑星ができたという
太陽系生成の標準的な考え方からすると、
その原始惑星系円盤の大きさが太陽系の広がりと考えるのが順当だろう。
標準理論ではそれは100天文単位(1天文単位=地球太陽間距離)ほどとされているが、
これは現在の太陽系天体(ガスやチリ含め)の質量やその広がりから見積もられたもので
必ずしも定まっているとは言えない。現状はどうなっているのか見てみよう。
*惑星ゾーン(正式名称ではないが)
水星から海王星がある範囲~30天文単位
*エッジワース・カイパーベルト
海王星より外側、冥王星なども含む準惑星や小天体が分布 30~55天文単位
*太陽圏(ヘリオスフィア)
前記、太陽風の届く範囲 ボイジャーの位置から考えると100天文単位以上
ただしこのヘリオスフィアは太陽活動によりその範囲が増減する。
*ヘリオポーズ
太陽圏と恒星空間との境界 恒星間風と太陽風とが入り交じる領域
*オールトの雲
前記、超周期彗星の供給源と考えられている領域 5万~10万天文単位
1950 年にオールトが長周期彗星の(惑星からの影響を受ける前の)初期軌道を調べ、
太陽から5万~10万天文単位の距離に彗星のもととなる球殻状領域があるとした。
このオールトの雲は、太陽系内にある微惑星が他の大惑星により軌道が乱され
太陽系のはるか遠方にはじきだされたものと考えられている。
以上のように見るとオールトの雲は太陽の支配する領域とは言い難い事がわかる。
重力作用だけでなく、太陽磁場による磁気圏もあわせてみていくと
やはり太陽圏を太陽系の範囲とするのが良さそうである。
○おわりに
Space,The final frontier.These are the voyages of the Starship, Enterprise.
Its 5 year mission to explore strange new worlds,to seek out new life
and new civilizations,
to boldly go where no man has gone before.
***テレビ映画 スタートレック(邦題 宇宙大作戦)冒頭のナレーションから***
これは数十年も前のSFテレビ映画スタートレックの冒頭に流れるナレーション。
時代設定は22~3世紀?
それが映画化された第1作には何とボイジャーが登場する。
宇宙空間を漂っていたボイジャーが機械文明体に取り込まれ、その創造者を求め
宇宙を旅し宇宙船USSエンタープライズ号と遭遇するというような内容だった。
もしもボイジャー2号が仮に太陽の隣の星に行けたとしても、約8万年はかかる。
宇宙は広大、文明の継続時間はどれくらい、そんなもろもろを考慮すると
ボイジャーがほかの生命に遭遇する確率はほとんど皆無に近いだろう。
それでもボイジャーには人類のメッセージを記録したレコードが託されている。
いつか、どこかで、誰かがそのメッセージを開くことを期待して・・・
● 月の成因
はるか昔から、月は我々に最も親しまれている天体の一つである。ところがその月がどのようにしてでき、今のような姿となったのか、
身近な存在であるにも関わらずまだよく分かっていない。
月で最も特徴的な地形であるクレーターの成因一つとっても、
以前は火山説と隕石説とが対立していて結論が付かなかった。
状況が変わったのはアポロによる月探査からで、
月の地表に見られる岩石の多くが衝撃によって破砕されたものであることや、
クレーター周辺に高温高圧下でできたメルトが見つかるなどしたため、
火山説は鳴りを潜め、隕石説が広く採られるようになった。
今なお残る最大の問題、それは月がどのようにできたのかという成因である。
これもアポロ以前は
①分裂説(親子説) :高速回転している地球からちぎれてできた
②共集積説(兄弟説) :地球とともにガスや塵が集積してできた
③捕獲説(他人説) :地球のすぐ側を通過した天体が引力に捕えられた
といくつか説が提唱されていたが、各々難点があるため定まらず
その後、月探査で得た知見を加味し、現在最も有力となっている説が
④巨大衝突説:火星ほどの大きさの天体が地球に衝突、
溶融し飛び散った2つの天体のかけらが一つに集積して月になった、
というものである。
だがこの説も必ずしもすべての条件をクリアするものではなかったため
同様のアプローチでのシミュレーションがいくつも提起されており
・巨大衝突で月になる天体が2つ出来、その後両者が衝突合体することで
現在ようなの月の姿になったというものや、
・何回か起こった天体との衝突で段階的に月が形成されたというもの
など様々で、未だ決着には至っていない。
〇地球の月の特異性
太陽系で月を持っている惑星は火星、木星、土星、天王星、海王星だがそれらの中で地球の月はかなり特異な存在である。
その最たるものが地球に対しての大きさ、そして表裏の地形の不一致である。
・大きすぎる月
月の直径は3500キロ、これは太陽系最大の月ガニメデ(直径5300キロ)には
及ばないが、地球との比で見ると月の直径は地球の4分の1強、これに対し
ガニメデは木星の27分の1しかなく、月は桁外れに大きい。
質量比でも、月は地球の100分の1、ガニメデは木星の10000分の1と
2桁もの差がある。更に同じ岩石惑星である金星は地球と同サイズなのだが
月を持たず、火星の2つの月も10キロ内外のサイズで非常に小さく、
地球の月の大きさは太陽系の中でも際立っている。
・表裏が異なる月
地球から見た(表側)月の表面は暗い海と白っぽい高地に分かれ
海は滑らかな溶岩で満たされ、高地には沢山のクレーターが密集する。
一方、裏側には海がほとんど見られず、巨大な衝突盆地やクレーターで埋め尽くされ、
表裏の様子が全く異なっている。更に裏側の地殻は探査機による重力異常の観測で
表側より厚く、表側の6~70kmに対し100kmもの厚さがあると考えられている
〇月のファクト
アポロを始めとする月探査でこれまで明らかになったことは①地形形成年代
・45億年前 月の形成~大規模な溶融状態~微惑星衝突
・44~45億年前 マグマオーシャンの固化、地殻の形成
・42億年前 放射性元素同位体による高地での二次的マグマ活動
・38~40億年前 隕石重爆撃によるクレーター生成(インパクトメルトの起源)
・32~38億年前 月の海の火山活動(溶岩流出~海の玄武岩の結晶化年代)
②地表
・地表はレゴリスという細かく砕かれた砂に覆われている
・地表には数多くの砕屑礫岩(砕けた岩の塊)が分布する
・クレーター周辺などに衝突メルト(溶けた物質)が見られる
・衝突メルトの形成は38~40億年前(同位体比による)である
・海は黒い玄武岩(マグマ溶岩)で覆われている
・イリジウム・白金などの親鉄性元素が少ない
・地球に比べ、 水やナトリウムなどの揮発性物質が少ない
③内部構造
・外側から地殻、マントル、核の層構造がある
・地殻を形成する鉱物の大部分は斜長石である
・全体の平均比重は3.3(地球は5.5)、地球より金属鉄が少ない
・地殻は60~100kmほどの厚みを持つ
・月の表側の地殻は薄く、裏側の地殻は表側の倍近くの厚さがある
・マントルはカンラン石・輝石からなり下部は一部溶融している
・核は溶融した外殻と固体金属からなる内核に分かれる
〇巨大衝突説(ジャイアントインパクト説)
旧3説に替わり、月の特異性やアポロ以後明らかにされた月のファクトを矛盾なく説明できるものとして、1975年に登場したのが巨大衝突説である。
ここで旧3説の難点とは
・分裂説の難点
分裂して月が飛び出すためには過去の地球は高速回転していなければならないが
現在の月~地球系の角運動量は半分ほどしかない。角運動量を減少させる何らかの
原因を考える必要がある。また分裂して月ができたとしたら地球と月は同じ組成で
なければならないが、実際には同じ組成となっていない
・共集積説の難点
同じ材料から集積したとすると地球同様に月にも大きな金属核があるはずだが
月の平均比重は小さく金属核はあったとして小さいはず。またこの場合、月の
大規模な溶融は困難で月の内部構造と合致しない
・捕獲説の難点
月を捕獲するためには月と地球が極めて近接しなければならず、その場合大きな
潮汐力で破壊されてしまう可能性がありうまく捕獲するのは困難である
また月と地球の酸素同位体比が一致していることの説明も難しい
これに対し巨大衝突説は、現代の太陽系生成理論~原始太陽系星雲の中で
膨大な数の微惑星が衝突合体を繰り返して原始惑星に成長、今の姿となった~
に通じるもので、太陽系惑星の生成過程で、
原始地球と、大きさが地球の半分ほどもある原始惑星とが巨大衝突を起こし、
衝突時に発生した高熱で溶かされ気化した両天体のかけらが円盤状となって
地球を周回、その溶融した周地球円盤が凝縮し月が誕生したとする。
そして生まれたばかりの月は冷えるにつれ構造が分化、核やマントル、地殻を作り
その後隕石の重爆撃によるクレーター生成、そして内部からの溶岩流出による
海の誕生というような歴史を経て今の月の姿となったわけである。
*注)巨大衝突のシミュレーション動画が国立天文台ホームページの
4次元デジタル宇宙プロジェクトに「月の生成」として公開されている
この巨大衝突説を採ることで
・火星サイズもの大きな天体との衝突があったため、大きい月になった
・斜め衝突により両天体の外層部分がはぎ取られ月になったので比重が軽くなった
・地球由来のマントル物質の混入で、地球と月の酸素同位体比が等しくなった
・衝突時の膨大な熱で月の大部分は溶融、マグマオーシャンが形成された
・深部まで溶けていたマグマが固化することでほとんどが斜長石の地殻になった
・溶融で揮発成分が蒸発してしまったので揮発成分が少ない岩石となった
など月の様々なファクトを説明でき、更に表裏の地殻の厚さの違いについても
①月生成直後の地球~月間距離は極めて近接していたため地球からの放射熱が
月の表側を熱し、そこで溶け蒸発した地殻成分が温度の低い裏側に移動、
そこで固化したため裏側の地殻が厚く成長した、とか
②巨大衝突で月の元となる天体が2つ出来、その片方がもう一つの月の裏側に
緩やかに衝突したため裏側の地殻が厚くなった、などと説明している。
このように月の成因や現状をうまく説明する巨大衝突説だが
より新しいモデルでのシミュレーションでは必ずしも想定どおりにならず
・巨大衝突でできた周地球円盤は、ほとんどが衝突した原始惑星のものとなり
地球由来の物質の混入が少ない→同位体比が地球と同じの説明が困難
・飛散した揮発成分にも円盤の重力が働くため、散逸せずもとに戻されるので
揮発成分の量は変わらない→揮発成分少の説明が困難
などの異論もあるため、それを回避する様々なシナリオが出てきている。
〇巨大衝突説をめぐる様々なアプローチ
標準的な巨大衝突説では地球由来の物質の混入が少ないという問題については高速で回転する原始地球へ、非常に高速での原始惑星の衝突で
多量の地球由来の物質が放出されたとするモデル、
原始惑星は衝突で完全には粉々にはならずそのまま飛び去ったため、
原始惑星由来の物質の混入は少ないとするモデル、
複数の天体による何回かの衝突で地球由来の物質が放出されたというモデル、
原始惑星はまだ溶融している地球のマントルに衝突したというモデル、
他の場所で起こった衝突で月のもととなる天体が2つでき、その内の一つが
地球の引力に捕らえられて月になったというモデル、
また比較的最近では2022年NASAエイムズ研究センターチームが発表したもので
シミュレーションの際、計算する粒子の解像度を桁違いに上げたモデル(注)で
巨大衝突により2つの塊ができ、その内一つは地球に取り込まれるが、
外側の塊の方は数時間というごく短時間に月が形成されたというものもあり
注)2022年10月4日Astronomical journal letters_
Immediate origin of the moon as a post_impact
どれが最も確からしいかはまだまだ先の話で、
月の裏側を含めた全球的な探査(米アルテミス計画などのような)が行われ
広範な地質資料が得られるようになるまでは結論が出ないだろう。
            
