天文資料集

天文の話題
(話題の天文話アーカイブスより抜粋)

●光害

 世界中で光害が進み、現在では全世界の人口の3分の1以上の人々が
天の川を見られなくなっているという調査結果が公表された。
~サイエンス・アドバンシズ(米国:6月10日電子版)
light pollution astronomy environmental protection~
欧米の研究者たちによる論文で、3万5千か所以上の地上ポイントからの観測と、
地球観測衛星スオミNPPによる2014年分のデータとを合わせ光害マップが作られた。
注:スオミNPP(Suomi National Polar-orbiting Partnership)
米海洋大気局が運用する地球観測衛星。Suomiは米国の気象学者名。
極軌道を周回し、24時間で地球を14周する。
気候変動やオゾン層観測、気象予報、地表の植生、氷に覆われた地域、温度、
自然災害、大気汚染、エネルギー供給量などのデータを取得。
さて、この新しい光害マップによれば、
世界の人口の8割以上が何らかの光害の影響を受けており
その傾向は先進国ほど高なっている(当然とも言える結果だが)。
米国では人口の8割、欧州では6割、
そしてこの日本でも7割ほどの人が、天の川を見られないという。
光害にさらされていないのは、アフリカとかマダガスカルなどの国々で
まだ8割近くの人々が自然の星空を見ることができるということだ。
また、研究者たちは今回の調査結果が、
星空が見えなくなったということだけでなく
光害が健康面に与える影響や、夜行性の生物に与える影響など
様々な分野にも役立てばと期待しているようだ。
これと似たような調査は数年前まで日本でも行われていた。
全国星空観察~スターウオッチングという事業で、
夏はおりひめ星の近傍を、冬はスバルを見て、
そこにどこまでの明るさの星が見られるか調べるというものだった。
環境庁が音頭取りをし、各地の科学館や公開天文台、学校のクラブ、
同好会など中心に一斉に行われたので参加した人も多かっただろう。
この川口も、東京に隣接し以前にも増して空が明るくなっている。
科学館天文台から見た南の星は、街明かりで3~4等星までしか見えない
(~夜景としてはきれいかもしれないが)。もちろん天の川も見えない。
夏のさそり座は釣り針形が特徴だが、釣り針の先の星たちは高度も低く、
見られるのはお盆休みぐらいになってしまった。
北の北斗七星も、七つの星を全部コンスタントに見るのは難しく
条件が良くても6つしか見えないというときも多い。

○2001年版光害マップ

最初の光害マップは2001年に刊行されている。
宇宙から見た夜の地球ということで地球儀にもなっており、見た人もいると思う。
これはDMSP(Defense meteorological satellite program)気象衛星の観測から、
地上から恒常的に出されている光源だけを集めたもので、
World Stable Lightsとして米国の海洋大気局(NOAA)により公開されている。
それを見ると2001年当時から、英独仏などヨーロッパ諸国や日本・韓国、モスクワ、
アメリカ東海岸など、北半球側がとりわけ明るくなっているのがわかる。
日本を詳しく見てみると東京、大阪、名古屋を中心に太平洋側が明るい。
南半球もピンポイント的に明るい地域はあるが北半球よりはその広がりは小さい。
と、このような状況だったが当時から10年が経過、
途上国の経済発展、地球温暖化など自然環境の影響も含め、
空を明るくする要因はますます増えている。

○2016年光害マップ

今回の光害マップはイタリアの光害科学技術研究所(ISTIL:Istituto di Scienza
e Tecnologia dell'Inquinamento Luminoso)のファビオ・ファルキ博士らが
勤務時間外のフリーの時間を使って調査し作成したものだそうだ。
2001年の光害マップでは地上からの光だけを注目していたが、
今回のものはこれに加えて空からの反射光も考慮されているとのこと。
これは前回とは異なり、地上からの視点という要素が強いともいえよう。
もう一つの違いは表示が6段階にランクわけされているということ。
本来の(全く光害のない)星空、地平線近く(に光害の影響がある)が悪化、
天頂までが悪化、自然の空が失われている、天の川が見えない、そして
目の錐体細胞(色を感じる)が(明るさで)活性化とあり、
こちらも地上からの視点ということが言える。
このように2001年版とは視点や表示法が異なるので単純比較はできないが、
まずはこの日本に注目してみよう。
天の川が見えないレベルは東京、名古屋、大阪、また札幌、北九州にあり
特に最初の3地域はその領域が大きく広がっている。
自然の空が失われているというレベルはほぼ日本全体に広がる。
本来の空が見られるレベルは(世界地図になっているため解像度が足りず)
このマップ上ではまったく分からない。
条件の良い場所でも、天頂まで影響が出ているというレベルであった。
かって、天文台スタッフから
新しい天文台候補地の調査などで南の孤島に行くと満天の星空で、
水平線まで星が見えると聞いたことがあるが、
今はそんな場所は国内では、ピンポイント的にしか望めないのかも。
世界はどうか?自然の星空が失われているというレベルで見ると
アメリカの中部から東海岸全体、ヨーロッパほとんど全土、ロシア一部、
中東の大部分、インド、中国東部、南米の東岸部、東南アジアなどに
大きく広がっているのがわかる。陸地面積で見ると全土の3分の1から
4分の1ほどがそんな状態だ。
一方、本来の星空が残されているのはアラスカやカナダ、南アメリカ中部、
アフリカ、オーストラリア、ロシア、南極大陸などとなっている。

余談

今、世界的に普及が進みつつあるLED照明について。
LEDは発光効率がよく省エネには最適である。
しかし、光害という観点からは単純には喜べないかもしれない。
例えば、2016年光害マップではLEDによる空の明るさの度合いが
過小評価されている可能性もあるようなのだ。
今回のデータのもととなったスオミNPPのカメラは
可視光の短波長側、青~紫の光の感度が高くないということだ。
気象衛星という性格上、カメラは赤外~近赤外中心のCCDが使われる。
照明用の白色LEDは、青色LEDと黄色発光体を合わせ白色に見せる
というものが多いという。そのピーク波長は470nmあたりになる。
青色の光は赤色よりも散乱しやすく、空全体を明るくする原因にもなる。
その感度が低いということは、実際に我々が感じる空の明るさは
今回の光害マップで表示されるレベルより大きいということになる。
もう一つが地球温暖化について。
これは光害という観点からもあまり歓迎したくない。
真冬の空が澄んでいるのに対し、夏空は白っぽい。
地球温暖化は大気中の水蒸気量の増加やエアロゾルの割合を増し
その結果大気中の散乱光が増えて夜空を明るくする一因にもなる。
最後に、
この地球という惑星、まだ本来の星空を残す地域も多いが、
逆にそれが失われたという地域も特に北半球側で目立つ。
夏休みにきれいな星空を堪能したくなったら
赤道越えで南半球側に旅するのが一番いいのかもしれない。

●地球温暖化

~NASAなど諸機関から、2017年の世界の平均気温統計データが発表された。
NASAによれば、2017年の地球の平均気温は高く、1880年の観測以来2番めの暖かさだったという。
ただし、この年は気温上昇の要因となるエルニーニョ現象が見られなかったのでそれを考慮すると
2017年は観測開始以来これまでで最も暖かかった年になるとの分析もされている。
地球全体の平均気温はここ数年、毎年のように過去最高というレコードが更新されており、
年々暖かく、地球温暖化の傾向がますます顕著となっているようだ。
**以下NASAのHPから抜粋
Jan. 19, 2018 RELEASE 18-003
Long-Term Warming Trend Continued in 2017: NASA, NOAA
Earth’s global surface temperatures in 2017 ranked as the second warmest since 1880,
according to an analysis by NASA.
Continuing the planet's long-term warming trend,
globally averaged temperatures in 2017 were 1.62 degrees Fahrenheit (0.90 degrees Celsius)
warmer than the 1951 to 1980 mean, according to scientists at NASA’s Goddard Institute
for Space Studies (GISS) in New York. That is second only to global temperatures in 2016.
**ここまでNASAのHPから
上記によれば、2017年の世界の平均気温は1951年~1980年の平均値と比べ0.9度C上昇しており、
この値は2016年に次ぐ高さになるという。
また英国象庁・米海洋大気局(NOAA)も同様の分析で2017年を観測史上3番めの暖かさとし、
違いが見られるが、これは集計処理のやり方による差異で、前者は年単位での集計結果、
NASAは長期的な傾向を見るため、年ごとの小さな変動を平滑化処理しての結果ということである。
このようにエルニーニョやラニーニャといった自然現象の影響を取り除いてもなお残るような
かなり早いペースでの世界的な平均気温の上昇は、人が排出し続けている温室効果ガスの増加蓄積が
主な要因となっていると考えても大きな誤りではないだろう。
何年か前のことだが、スーパーコンピュータを使っての地球温暖化シミュレーションがなされ、
それをもとにした赤い地球儀というのを見たことがあるが、極地方やヒマラヤ山脈といった寒冷地域ほど
温暖化の影響が著しく、ダメージが大きいことが見て取れた。
(~先だって、過去最大級の氷山が南極から分離したというニュースなどもあった。
温暖化による地球環境への影響はすでに各所に出始めていると言えるだろう。)

○温室効果と金星

私たちがこれまでと同じペースで二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を続けると、
将来、地球の平均気温が数度上昇し、海面上昇や気候変動などの影響が出ると言われている。
年数度ぐらいなら、暖かくなっていいのではという程度の認識ぐらいしか私たちには持てないが
温室効果の影響は全地球的観点から見ても予想以上のものがある。
その一例、この温室効果が暴走した極端な世界が太陽系で身近にある。
それはかって地球の兄弟星と言われた金星だ。
金星は地表温度500度、大気の主成分は二酸化炭素で地表付近の大気圧90気圧という高温かつ
濃厚な大気に覆われた世界である。過去の地球の姿が金星と表されることがあるが
地球より太陽に近く、厚い雲と濃厚な二酸化炭素による温室効果でこのような世界となったと考えられている。
地球には幸い海があったため大気中の二酸化炭素は吸収され、また鉱物として固定されるなどして減少、
極端な温室効果は働かず温暖な世界となったと言われる。こう見ると温室効果恐るべしである。

○地球史から見た温室効果

上記は極端な例だが、温室効果は数十億年という地球史上でも大きな役割を果たしている。
その一つにスノーボール仮説というものがある。
それは今から6億年ほど前の地球は全体が凍結していたというもので、
この時代に活発化したマントルの運動で超大陸が誕生し、この陸から流された有機物が
堆積岩中に固定されることで(有機物が分解されないので)結果として二酸化炭素量が減少、
また大気中の二酸化炭素が、大陸から流され海水中に溶けたカルシウムと結合、
石灰岩として固定され減少。これにより温室効果が弱まって地球全体が寒冷化したとされる。
その後、海が凍りついてしまったことでに火山活動などで放出された二酸化炭素が吸収されず、
濃度が徐々に上昇していき、結果高濃度の二酸化炭素が蓄積され今度は一気に温室効果が暴走、
温暖化が進んだというようなストーリーが考えられている。。
もう一つはマントルオーバーターン仮説。
これはマントル対流によってマントル中に沈み込んだ大陸プレートの残骸が徐々に蓄積され
さらに深部(外核)に落ち込むと、その反動で逆の熱い上昇流(ホットプルーム)が活発化、
地殻に達し地表の火山活動が激しくなり、超巨大噴火を起こし太陽光を遮断、寒冷化が進む。
だが、この後、火山ガスの放出で二酸化炭素濃度が増して結果温暖化が進むというような
ストーリーで、温室効果ガスの増減は地球環境に大きな影響を及ぼすことが分かる。
このような大きな環境変化は当然生物にも大きな影響を及ぼす。これまでの地球史でも
生物の大量絶滅が何度かあったと考えられ中でも2.5億年前の大量絶滅は時に知られている。

○おわりに

数年~数十年といった短期的な気候変動は、地球大気や海の循環などによっておこされ、
これに数百年~数千年といった中長期的な気候変動には(おそらく)太陽活動も関連し、
さらに数千万年~数億年といったの非常に長い期間での気候変動は地球内部の運動が起因し
というように、地球温暖化・地球寒冷化には様々な要因があると考えられる。
今の温暖化の傾向は、すべてが温室効果ガスの排出が原因とは言えないかもしれないが
地球そのものや太陽活動によって起こされる環境の変動は、現状進みつつある変動より
はるかに長いスパンで起きると考えるのが自然だろう。

●恒星間旅行

 宇宙への旅の話が話題となった。恒星間旅行である。 名付けてブレークスルー・スターショット計画。
内容については次のウェブサイトで公開されている。
http://breakthroughinitiatives.org/Initiative/3
....In the last decade and a half,
rapid technological advances have opened up the possibility of
light-powered space travel at a significant fraction of light speed.
This involves a ground-based light beamer pushing ultra-light nanocrafts
- miniature space probes attached to lightsails - to speeds of up
to 100 million miles an hour.
Such a system would allow a flyby mission to reach Alpha Centauri
in just over 20 years from launch,....。
ここで言われている中身は、
帆のついた超軽量で微小サイズの宇宙船を~もちろん人間は乗れない~、
地上から強力な光線ビームをあて光速の何分の1かまで加速し、
20年ほどで太陽のお隣の恒星(αケンタウリ)まで到達させるというもの。
今までにない発想の実に面白いアイディアだ。
まだ課題はあるようだが、これなら夢物語りでなく実現できるかも?
先日も、我々が宇宙人に会えるのは確率的にまだ1500年は先!なんて
アメリカでの話もあったし、恒星への旅について見ていくことにしよう。

○これまでは

図鑑などで、一番近い恒星まで行くのにどれぐらい時間がかかるか?
というような絵を見たことがあるだろう。
月や惑星までなら数日~数年という程度だが、
恒星までは、最速のロケットでも7~8万年も時間がかかる。
SFの世界では、
恒星間の移動にはワープという手法を使うのが定番になっている。
ワープとは歪めるとか曲げるという意味だが、
光速を超えられない(最近は幼稚園児でも知っているぐらい有名)の回避のため、
空間を曲げて近道を作り何光年何千光年という距離を飛び越えるという代物。
似たようなもので、ブラックホールを利用するなんてのもある。
因果の地平線を超えると別の宇宙へつながっているかも?という話だが、
これだと一体どこへ連れていかれるか分からないし、
大体そのブラックホールまでどうやって行くんだということにもなる。
さて、そんなこんなで今まで人類がやってきたのは、
宇宙人へのメッセージを巨大なパラボラアンテナで送信したり
(1974年アレシボ電波望遠鏡から球状星団M13に向けて送信。
宇宙に生命のある星はどれくらいかという計算式を書いたドレーク博士や
カール・セーガン博士などが呼びかけ人~M13までは距離25000光年!
なんと気の長いプロジェクトだったんだろう)
太陽圏を抜けつつあるボイジャーにメッセージを託すというぐらいだった。

◎スターショット計画

この計画の仕掛け人はロシア人のユーリ・ミルナー氏。
どんな人かは寡聞にして知らなかったが、あちこち見てみると
億万長者、投資家、企業家、慈善家とか色々と書いてある。
彼が当座の研究資金として1億ドルを拠出し
多くの研究者たちと協力して計画を進めていくということだ。
(~総額としては50~100億ドルの費用がかかると見込まれている)
このミルナー氏、以前にもブレークスルー・リスン(Breakthrough Listen)計画
という、今後10年のうちに宇宙の知的生命体からの信号を探っていくとの
やはり1億ドルのプロジェクトも立ち上げているそうで、
内外のお金持ちもこういうお金の使い方をしてくれると素晴らしいのだが。
計画への賛同者は各界にわたり、錚錚たる学者たちが協力者として名を連ねている。
すぐに目についたのがスティ-ブン・ホーキング博士。
まず知らない人はいない有名な理論物理学者だが、この人、けっこうなSF好き。
かなり前のことだが、スタートレック(数多くのファンがいるSFテレビドラマ)に
ホーキング本人役で出演。アインシュタイン、ニュートンなどとポーカーを楽しむ
という役どころを演じていた。とまあこんなユーモアに富んだ人なので、
今回のような話にはいかにも喜んで加わりそうだ。
あと、フリーマン・ダイソン。こちらもダイソン方程式でよく知られる理論物理学者。
ソール・パールムッター。宇宙の加速膨張の発見でノーベル物理学賞を受賞。
フェイスブックのCEO、マーク・ザッカーバーグなどなどさまざまだ。

○宇宙船スターチップ

飛ばす宇宙船は、これまでの船のイメージとは全く異なるもので
色々な機能を集積したコンピュータチップのようなものだ。
しかも1機だけではなく、数千機をまとめて送り出すという。
サイトによれば、切手ぐらいの大きさの超小型宇宙船で、重さはグラムの単位、
せいぜい数グラムとしたいようで、その名のとおりチップの重さしかない。
搭載機器は高精細カメラや通信機器・ナビシステム、
これらを動かすための電力装置(恒星間を飛行するので太陽電池パネルは使えない)など。
これに1m四方ほどの極薄の帆をつけて、超高出力レーザーをあてることで推進する。
また宇宙船1台当たりのコストはスマートフォンより少し高いぐらいとなるとか。
このように非常にユニークな宇宙船だが、これらを実現するための技術は
まだ開発されておらず、研究開発含め20年ほどの時間がかかるだろうとしている。
超軽量超小型の高精細カメラ、長年月稼働できる超軽量超小型電池(原子力電池?)、
極薄だが強靭な帆、1000億ワットもの超高出力レーザー照射装置など、
まさにブレークスルーの技術開発がなければ作れない宇宙船となる。
今の技術革新のスピードを見れば、今世紀中には実現できるかもしれないが
~小型化はけっこう行きそうだが、軽量化は特に電池関係で難しそう~
全体の経費面を含め、はたしてどうなっていくのだろう。

○レーザー推進

轟音とともに飛び立つロケットの打ち上げ風景はいつ見てもダイナミックだが
そこで使われるのが化学燃焼型のロケットエンジンだ。
燃料を燃やして出たガスをノズルから噴出して飛び上がる、
スペースシャトルやHⅡロケットなどのエンジンがそれだ。
この化学燃焼型ロケットは推力が大きく短時間で加速できるので打ち上げには都合がいい。
ただ、ガスの噴出速度は秒速3キロ(~数キロ)ほどしかないので、
多段式にして速度を加算することで地球の引力を脱している。
難点は効率の悪さだ。そのほとんどを推進剤が占め、その分重量が重くなる。
積める燃料にも限りがあるので、スイングバイなどの技法も使いながら
秒速20キロほどの速度を得ているのだ(~ボイジャー探査機がこれぐらい)。
一方、ハヤブサで広く知られるようになったイオンエンジンは、
電気推進型エンジンだ。イオンを電気的に加速、その噴出速度は秒速30キロにもなる。
推力は小さいが効率が非常に良く、長期の運転が可能である。
だが、それでも燃料を積んでいくということには変わりないし、
また秒速数十キロ台の速度では、恒星間を飛行するにはまだまだ遅すぎる。
ということで発想の転換をしたのがこのレーザー推進だ。
光であるレーザーをあて加速するので理屈上は光速近くまで加速することもできる。
また外部的に押してもらうので自前で燃料を持つ必要がなく大幅に軽量化できる。
その速度は、計画では100 million miles an hour、光速の15%ほどになる。
これなら恒星まで行くには実用的な速さである。
ところで、レーザー照射装置の設置場所はどこになるのか?
これは当然、大気による乱れや減衰のない宇宙空間に置くのがいいはずだ。
だが計画は地上、アルマ望遠鏡があるアタカマ砂漠のような高地に設置するとしている。
大がかりな装置を軌道に打ち上げるというのが困難なことと
補償光学という、大気の乱れの影響をほとんど受けないようにする技術があること、
そして、おそらくこれが一番大きな理由かもしれないが
軌道兵器に転用されかねないとの懸念を排するため、ということのようだ。

○ソーラ-セイル

ところで、宇宙空間を帆で進むと聞くと夢のような話にも思えるが、
実はそのアイディアは古く、ロケット工学の父とも言われる、
ロシアのツィオルフスキーなどが1924年ごろ提案したのが始まりだ。
NASAは1990年代後半からこのソーラーセイルの研究を進め、
2010年に最初のソーラーセイル試験機を地球周回軌道に上げている。
さらに2018年には、ニア・スカウトというソーラーセイル探査機による
地球近傍小惑星1991VG探査も予定しており、
それによれば太陽光だけで秒速29キロ近くまで加速できるという。
日本でも2010年に金星探査機あかつきと一緒にイカロスを打ち上げた。
イカロスも太陽光を受けそれを推進力として進むというもので
昨年5月の段階で地球から1億キロ以上離れた所を航行中だ。
~現在は、一辺40mの帆を持つ次期ソーラーセイル計画が進行中~
4.3光年の彼方にあるαケンタウリへの旅、スターショット計画が
順調に進んだとしても残り50年はかかる。
さて、50年後の我々は、そこにどんな姿を見られるだろう?

●ニュートリノ振動

~2015年ノーベル賞に日本の2人の研究者が選ばれた。医学・生理学賞の大村智氏、物理学賞の
梶田隆章氏だ。報道されたお二方のコメントが実に対照的で印象に残った人も多いだろう。
大村氏は、人のために少しでも何か役に立つことを微生物の力を借りて何かできないか、と。
梶田氏は、この研究は何かすぐに役に立つものではなく人間の知の地平線を拡大するような、と。
物理学の特に素粒子分野は自然の仕組みに迫る基礎的研究、もともと役立つという要素は少ない
と思うのだが、それでも何の役に立つのかと報道陣から質問が出ていたのはおもしろい。
しかし、気持ちはわかる。ニュートリノに質量があることが分かった。そして宇宙の成り立ちに
迫る・・・。と、言われても普通は???で、何が何だかよくわからない。
だいたいニュートリノ自体、得体が知れない。微小で目にも見えず、楽々と地球をもすりぬけて
しまう!、まるで幽霊のような粒子??。

○原子

身の回りのものは原子を単位としてできている。原子は中心に+の電気を帯びた陽子、そして
中性子があり、その周りをーの電気を帯びた電子が回る。これがお馴染みの原子のイメージだ。
だが、この陽子、中性子は基本的な粒子ではなく、クオーク3個が結合してできている。
ところで、陽子は非常に長寿命で10の34乗年もの寿命があるそうだ。何と宇宙の年齢より長い!。
一方、中性子は単独では不安定で15分程度の寿命しかない。電子(放射線)とニュートリノを
出して陽子に崩壊する(=高校物理で習うベータ崩壊という現象)。
と、ここで初めてニュートリノ(この場合は反電子ニュートリノ)という粒子が登場する。

○ニュートリノ

ニュートリノは原子よりもはるかに小さな、それ以上は分けられない素粒子の一つである。
ベータ崩壊の研究などからその存在が予言されたのだが、発見はだいぶ後になってからだ。
この素粒子には個々の状態を表す量子数というものがある。質量や電荷(+-)、スピン(自転
のようなもの)などである。ニュートリノは電荷ゼロ、スピンは左巻きのものしか観測されず、
質量はゼロとされていた。中性なので周囲のものから電気的な力を受けない。
受けるのは’弱い力’(名前の通りのほんの小さな力、電気的な力の千分の一ほどの強さ)で、
その働く距離は原子サイズの1億分の1しかないという超短距離にしか届かない力だ。
ニュートリノから見れば、原子といってもスカスカの広大な空間だ。電気力は働かないし、弱い
力も全然届かない。これなら地球を簡単にすり抜けてしまうというのも分かるだろう。

○身の回りにたくさんあるニュートリノ

捕らえどころがない幽霊粒子ともいわれるが実は意外に身近な存在だ。
先ほどのベータ崩壊のほかに、太陽中心部の核融合反応でも発生している。陽子が4つ集まって
ヘリウムができる。その際に、膨大なエネルギーとともに電子ニュートリノが放出され、それが
地球にまで到達しているのだ。
また宇宙からやってくる宇宙線が地球大気と衝突したときも、最終的にニュートリノとなって
絶えず地上に降り注いでいる。このほか、星の最終段階、超新星爆発でも膨大なニュートリノが
発生して宇宙空間に放出される(その検出で何年か前ノーベル賞を受賞したのが小柴先生)。
さて、このように我々は絶えず膨大なニュートリノに曝され、それが体の中を突き抜けている。
そう考えると、ニュートリノがほかのものと反応しなくて本当によかったと思うだろう。

○変身するニュートリノ

太陽からやってくるニュートリノ数が理論から考えられる3分の1ほどしかないという問題が
以前にあった。中心部での核融合反応が休止しているのではとか太陽モデルに誤りがあるのでは
とか言われたが、最終的に、太陽からやってくる電子ニュートリノが途中で他のニュートリノに
変わっているようだということになった。
宇宙線による大気シャワーでも同じ。上空からやってくるニュートリノの数を調べると地球の
裏側から地球を通り抜けて観測されるニュートリノの数が異なる。こちらも、地球を抜ける間に
ほかのニュートリノに変わっていることが原因らしい。
このニュートリノの変身という現象、波のように周期的に繰り返されるのでニュートリノ振動
と呼ばれており、理論的に予測されていたそうだ。で、ニュートリノ振動の検出実験というのも
行われてきた。今回のノーベル賞で知られるようになった岐阜県神岡のスーパーカミオカンデ~
筑波の高エネルギー加速器研究機構(KEK)間での実験、欧州原子力研究機関(CERN)~
グランサッソ研究所(イタリア)間などでの実験でも、ニュートリノ振動が検出されたのだ。

○ニュートリノ振動

目にも見えない、ほかともほとんど反応しないニュートリノの変身=ニュートリノ振動の検出、
これって我々から見れば大したことなさそうだが実はとても重要だとか。なぜならニュートリノ
振動は、ニュートリノに質量があるということを示す証拠となるからだ。もし、ニュートリノの
質量がゼロなら電子ニュートリノはずっと電子ニュートリノのまま、変身することはないという。
では今、ニュートリノについて、どのように考えられているのだろう。
ニュートリノは全部で3種類(電子・ミュー・タウニュートリノ)ある。これをニュートリノの
フレーバーという。用語が分かりにくいが、ここでは単に種類の意味と覚えておくことにしよう。
もう一つ、ニュートリノは質量からも、m1、m2、m3と3つの固有状態があるとされる。
ただ、m1~m3各々の値、どれが軽くどれが重いのかなどはまだ分かっていないという。
ここでフレーバーから見て、質量はタウ・・>ミュー・・>電子・・と、タウニュートリノが
一番重いようなのだが、実はやっかいなことがある。それは、タウニュートリノの質量ならm3
などと1対1の関係になっているのではなく、m1、m2、m3の3つの固有状態がある比率で
混合したものとされているのだ。電子・・も、ミュー・・も同様でそれぞれm1、m2、m3の
混合状態と考えられている。これでは分からない、??なので身近なものに当てはめてみよう。
ニュートリノのような素粒子は、粒子としての性質と波としての性質を併せ持っている。
波と考えるならm1~m3の3つ質量状態の異なる波は振動数や伝わる速度も異なるだろう。
そんな3つの波が伝わると、強め合ったり打消しあったり、うなりが生じるはずである。
あるニュートリノの飛行シーンを考えると、飛行中にうなりによって波の位相や振幅が周期的に
変動することになる。これは結局フレーバーが変わるということにならないだろうか?
これが、飛行中ニュートリノの種類が周期的に変わるという現象として観測されることになる。
ニュートリノ振動∽ニュートリノ質量、身の回りの世界とまったく違う不思議な世界だが、
こう考えると何となく納得できるだろう。

○ニュートリノと宇宙

最後の??、ニュートリノの質量は宇宙の成り立ちとどう関係するのかという問題だ。
この宇宙は、目に見えない何かで満ち溢れていると聞いたことがあるだろう。
星や惑星、ガスや塵などの目に見える物質は宇宙全体の4%ほどしかなく、残りは目に見えない
何か(ダークマター)と、見えないエネルギー(ダークエネルギー)だという。
小質量の褐色矮星や星の終焉の姿、白色矮星やブラックホールなども、この見えない何か、
ダークマターの候補に挙げられていたが、これだけでは足りない。他の何かということで、
挙げられたのが、質量を持つニュートリノだった。だが、想定される質量では軽すぎるとか、
宇宙の大規模構造と合わないなどの理由で、ダークマター候補としては今は否定的だ。
だが、ニュートリノの質量の有無は初期宇宙の広がる速さや、密度むら(密度揺らぎという)に
影響する。高速で飛ぶニュートリノは密度揺らぎの成長を遅らせたり、そのサイズを大きくする
などの影響を与えると考えられている。
また実は素粒子には反粒子というものがある。宇宙誕生の時には粒子と反粒子が同じ数だけ
あったと考えられているが、現在の宇宙には反粒子はない。ニュートリノの質量という問題は
これらの謎の解明にも役立つとも言われている。

●重力波

~重力波だが、ノーベル賞を受賞した梶田先生も KAGRAという大型低温重力波望遠鏡で
検出を目指す と話されていたこともあるので一度は聞いた言葉だと思う。
しかし、肝心な内容となるとほとんど???だろう。
重力波とはどんなものなのか その観測とはどういうことか、簡単にまとめてみよう。

○アインシュタインの相対性理論で予言された重力波

ニュートンの落ちるリンゴの逸話にもあるように モノが落ちるのは重力があるからで、
それを記述したのがニュートンの万有引力の法則だ。
そのおかげで我々は、遥か遠い惑星の世界まで探査機を送りこむことができるようになった。
このようにとても有効なニュートン力学だが、 どうしてモノの間に引力が働くのかはわからない。
それはとりあえず横に置いての法則だといえる。
これに踏み込んだのがアインシュタインの相対性理論だ。
相対性理論では、光速度一定ということを基として時間や空間は、
別個の絶対的なものではなく 時空として互いに関連し変化するものとしてとらえる。
そして重力は時空を歪め、それが引力として見えるのだと考える。
ピンと張ったゴムシートの真ん中に鉄球を乗せたら窪む、そんなイメージだ。
ゴムシートがゆがんだ空間にあたる。
そばに小さな鉄球を置くと、窪みの中心に向かって転がり落ちる。
窪みにそって転がすと、真ん中の鉄球を中心に回転する。
これがモノが落ちたり、地球の周りを月が回る重力として見えるというわけだ。
そして重力波とは、その空間の歪みが波のように 回りに広がっていく現象で、
重力源であるモノが動くときに 発生し、光速で伝搬すると考えたのである。

○とらえにくい重力波

100年近く前に予言された重力波だが、なぜこれまで観測されなかったのだろうか?
それは重力波が物質にほとんど影響を与えず通過してしまうからだ。
ふつう見ると、とても強そうに感じる重力なのだが
電磁力や原子を閉じ込めている力(強い力という)に比べると 桁違いに弱い。
電磁力と比較してみると何と38桁もの差があり、 まさに桁違いの弱さだ。
そのため周囲への影響は極めて微弱でモノにほとんど影響を与えない。
そんな重力波を直接とらえるにはどうしたらいいか、これが問題だ。
ところで、このようにとらえにくい重力波なのだが、
存在するということだけは間接的ながら既に立証されている。
それは連星パルサーと呼ばれる天体によってだ。
この宇宙には、小さいが極めて高密度の星~中性子星~が2つ、
連星となって互いに回りあっているという世界がある。
で、その公転周期を調べると、だんだんと短くなっていた。
この原因とされたのが重力波だ。高速回転する連星系から重力波が
放出され、そのことでエネルギーを失い接近、公転周期が短くなる
とするとちょうど計算が合うということから立証されたのだ。
(連星パルサーを発見した米国の天文学者テイラーとハルスは1993年ノーベル賞を受賞)
もう一つ、直接とらえたという論文が出されたこともあった。
2014年3月、重力波の観測のためにアメリカの大学などが
南極に設置し観測しているマイクロ波望遠鏡BICEP2で
インフレーション起源の重力波を捉えたというニュースが流れ 大きな話題となったことがある。
ただ、その観測だけでは まだ不十分で、重力波によるものかどうかわからないという。
その後どうなったか現時点では情報がない。

○重力波の直接検出

とらえにくい重力波を検出するにはどうすればいいか?
それにはまず効率的に重力波を発生するような現場を探すことだ。
その現場とは、強い重力場が激しく時間変動するようなところで
そんな場所からは大量の重力波が放射されるという。
となると地球上では無理なので、ターゲットは宇宙となる。
具体的にはブラックホールができる瞬間、
中性子星やブラックホールからなる連星が一つに合体するとき、
大質量星が重力崩壊し超新星爆発をおこすとき、
扁平な中性子星が高速回転しているとき、 宇宙誕生のときなどがそれである。
それらによって、振幅の大きな、さまざまな振動数の重力波が 発生し光速で伝搬していく。
振動数は現象によって異なり 10ヘルツ/秒から10000ヘルツ/秒ほどになるという。
波長に換算すると、3万キロから30キロ。 これは電波などと比べても桁違いの長波長である。
宇宙誕生時の重力波などはその後の急速な宇宙膨張によって
~インフレーション~今では波長が10億光年にもなるとかで あまりに長すぎて想像もつかない。
では、こんな重力波の検出方法をどうするかだ。
重力波の通過により空間はわずかに歪む。円形に取った空間が
歪んで楕円になるというようなものだ。波は一山だけではないので
この歪みは振動するように繰り返されることになる。
ということなら重力波の観測自体は単純ですみそうだ。
縦横にクロスさせるように配置した2点間の距離を測れば
重力波の通過による空間の歪みで長さが変動して見えるはず。
~重力波が通過すると片方は空間の歪みで長さが伸び、 他方は縮んでみえる。
次に他方の長さが伸び、 片方は縮んでみえるというように変化するという~
そして、この偏移の仕方が計算通りになっていれば
~ほかからの影響が皆無として~
確実に重力波を検出したと言えるようになるだろう。

●惑星大移動

知っての通り、木星は太陽系最大の惑星である。
直径比で地球の11倍もの大きさを持ち、分厚いガスをまとい、
太陽から5天文単位(地球~太陽間の5倍)離れた遠方の地にいる。
~惑星の並びは、太陽から、水金地火木土天海(冥)~
ところがこの木星、今でこそこんな遠い場所を回っているが
かってはずっと太陽に近い場所にいた可能性があるというのである。
これまで、京都モデルと呼ばれる太陽系形成理論が支持され、
惑星はそれぞれ今いる場所で生まれ進化したと考えられていたのだが、
近年のスーパーコンピュータなどによるシミュレーションで、
ダイナミックに変動する巨大惑星の姿が浮かび上がってきたのである。

〇太陽系形成理論(京都モデル)~その場形成説


1985年に京大の林忠四郎グループにより提唱されたもので、
太陽系惑星の生成過程を最もよく説明できる標準理論とされている。
その概略は
①ガスやチリが集積した原始太陽系円盤形成~中心は太陽になる
②チリなどの固体成分が集積合体し沢山の微惑星ができる
③微惑星同士が衝突合体し、原始惑星ができる 
④原始惑星同士が衝突合体し、惑星に成長する
・円盤の内側は集積度が大きく惑星は早く成長できる 
外側は集積度が小さく惑星の成長には時間がかかる
・内側は熱い、ガスや水は蒸発飛散し失われる
外側は寒冷、水は凍り、氷も惑星材料として使える
・内側は太陽の強い重力の影響で集積が阻害される
外側は太陽の重力の影響は受けず集積が続く
氷も材料にして巨大化し、周囲のガスを吸着
⑤原始太陽系円盤消失
・最外縁部は氷も材料に巨大化するが、成長は遅い
ガス吸着する前に円盤そのものが消失
⑥現在
・太陽近傍は水星・金星・地球・火星という岩石質の小型惑星
・外縁部には木星・土星というガスに覆われた巨大ガス惑星
・最外縁部には氷に覆われた巨大氷惑星
このように京都モデルは、
太陽からの距離(温度差~)による惑星材料の違い、
惑星の成長速度の違い、太陽重力の影響など考慮した理論で
現状の太陽系惑星の姿を非常にうまく表している。
木星などの巨大惑星は太陽から遠く離れた低温領域で生まれ
その場で大きく成長したと考えられるわけである。

 

〇N体シミュレーション~計算機の中の惑星形成

 

惑星がどのようにでき進化したのかを調べるには
N体シミュレーションという手法が使われる。辞書を引くと
これはN個の粒子で構成された系の運動方程式を数値積分し、
その時間発展を調べるというものだそうだが(???)、
原始太陽系の場合でいうなら、円盤内を回る膨大な数の微惑星が、
重力で互いにどのように相互作用するのかを求めるという話になる。
ここで微惑星2個の場合、その運動方程式は普通に解けるのだが
3個以上の場合は解析的に解くことができないとされ・・
~多体問題という。世紀の難問、ポアンカレ予想で有名な
ポアンカレが証明した~。
そこで、まず2個の微惑星間に働く重力を計算し、
微惑星がどのように動くか求め、それを全ての微惑星について
繰り返し行い、時間を追ってその変化を見るという風にする。
ただこのとき、その計算量は微惑星数Nの二乗に比例するため
サンプル数を大きくとるほどまさに桁外れの膨大な量となり
スーパーコンピュータが必要とされるというわけである。
さて、このように京都モデルをもとにシミュレーションを
行っていくと、いくつかの問題点が見つかった。
地球などの惑星は早くできるのだが、木星など外側の惑星は
太陽系の年齢内ではそこまで大きく成長できないというのだ。
また原始惑星が成長すると周りのガスの抵抗で公転速度が落ち
太陽に向かって落ちていってしまうのである。
この外惑星の成長問題、太陽落下問題は、
(シミュレーションの初期条件のとりかたにもよるのだが)
京都モデルに課せられた課題とも言えるだろう。
そして、これに更に付け加わってきたのが
京都モデル時代には無かった系外惑星発見という事実である。

〇系外惑星の発見と外側移動説

1995年、ぺガスス座に最初に発見された太陽系外惑星は
木星ほどの巨大惑星で、主星の回りをわずか数日で公転、
極めて主星に近接した場所を回る巨大惑星という、
今の太陽系の姿とは似ても似つかない世界だった。
だが、その後続々と見つかる系外惑星も
~系外惑星の検出手法も影響し~
ホットジュピターと称される主星に隣接した巨大惑星で、
このような惑星系が宇宙では少なくないということが
分かってきたのである。さてこうなると、
木星のような巨大ガス惑星は円盤部の外側でできたという
標準理論は見直しをせまられることになる。
巨大惑星は主星のすぐそばでもできる?というわけである。
だが、太陽系ではそうなっていない。なぜか?
ここから出てきたのが、原始惑星は内側ででき~密度が大なので
早く作れる~徐々に外側に移動するという外側移動説である。
これなら巨大惑星形成への時間的な制約は回避できるし、
多くの系外惑星の世界の実情にも合致している。
この説をもとに様々なN体シミュレーションが行われている。
国内でも「富岳」の一世代前のスーパーコンピュータ「京」を使った
N体シミュレーションが行われ、その結果が公表されている。
一例として、原始太陽系円盤の内側でできた原始惑星が、
周囲の微惑星と重力相互作用を起こし微惑星の角運動量を獲得、
それにより外側へ移動していくという結果も得られているという。
これと同様の計画は富岳でも考えられ、より現実に即した
条件下でのシミュレーションも遠くないはずである。
~ホットジュピターの成因については諸説ある。
最初から主星の近くでできたというその場形成モデル、
外側でできたものが中心近くに移動したという惑星落下モデル、
3個以上の巨大惑星が互いの重力で軌道を乱し、その結果
中心近くに移動したというスリングショットモデルなど。

〇カオス的な惑星世界

巨大な惑星が軌道外へ動くというのは思いもよらない話だが
太陽系初期はもっとカオス的で、起きて当たり前の現象だっただろう。
太陽系の歴史で惑星大移動があったという話もいくつもある。
たとえば地球が地球として壊されず存在できたのは、
木星が内外に大移動して他の天体を弾き飛ばしてくれたからとか、
木星の移動で太陽のすぐそばにあった天体が太陽に落ち込んだとか、
木星の移動で火星が大きく成長できなかったとか、
また。ごく最近(2019年)の研究では、
木星軌道の外側で形成された小惑星(D型:始原的小惑星)が
木星などの巨大惑星の内外への動きにより
現在の小惑星帯~火星と木星との中間~まで移動したとするなど、
惑星大移動を示すような研究や仮設がしばしば報じられている。

おわり