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最近話題の天文話

最近話題の天文話 

 ◎金星のスーパーロテーション

 2020年6月4日、金星が内合を迎え、この夏は明け方の空に移っている。
宵の明星・明けの明星と親しまれ地球の兄弟星とも言われた金星だが、
地表の様子は分厚い雲に覆われ全く見ることができない。
だが近年の探査により、金星は90気圧もの濃密な大気を持ち、
500度もの高温の極めて強烈な世界であることが分かってきた。
その中で、大きな謎とされてきたのがスーパーローテーション、
と呼ばれる高速の風の存在である。
硫酸の雲に覆われた上層では、常に秒速100mもの風が吹き
それが赤道から極までの全惑星的な流れとなって見られたのだ。
問題となったのはその速さで、何が大気の流れをそこまで加速し、
維持しているのかが分からなかったのである。
  2010年、この問題の解明のため打ち上げられたのが、
日本の金星探査衛星「あかつき」である。それから10年・・
2020年4月24日にアナウンスされたのが、
「スーパーローテーションのメカニズム解明」の報道である。
JAXA・北大など協同チームがあかつきの観測から求めたもので、
米科学誌サイエンス電子版(4月23日)にも掲載された。
~How waves and turbulence maintain
the super-rotation of Venus'atmosphere~
内容は、昼夜間の温度差により生じる南北の熱潮汐波が
角運動量を赤道側に運び上層大気の流れを加速するというもので、
未確定部分はあるが大筋で決着はついたと見られている。

〇ス-パーローテーション問題
  ス-パーローテーションとは、赤道を含む広範囲の領域で
自転と同じ向きに吹く超高速の風のことである。
金星で、どうしてそれが問題になったのかと言うと、
それが“あまりにも早すぎる”からだったのである。
大気を持つ惑星を考えた場合、惑星が静止していれば
大気も動くことはないが、自転させると大気も一緒に動き、
回転方向への流れ(風)となる。
このとき、風の速さは自転速度とほぼ同じとなるはずである。
  金星ではどうだろう?
金星の自転周期は243日、向きは東から西と地球とは逆で、
地球の200倍以上もゆっくり回っている。
この場合、赤道での自転速度は1.6m/秒にしかならない。
とすれば風速もその程度に遅くなるはずで、
仮に早かったとしても地表との摩擦や大気自身の粘性で
ブレーキがかかるため最後にはならされてしまう。
このようなことから、金星大気の流れはゆっくりである、
というのがかっての見かただった。
  ところが1974年、米金星探査機マリナー10号は、
金星の上層大気が広範囲にわたり最大秒速100mという、
自転速度の60倍もの速さで動いていることを確認。
これは、わずか4日で金星を1周するというスピードで、
4日循環とか、自転速度をはるかに超えるという意味で
「スーパー」と冠されることになったのである。
*(注)スーパーローテーション発見の歴史は古い。
  1957年、アマチュア天文家シャルル・ボワイエ(仏)は
  任務地(フランス領コンゴ)で研究者のアドバイスを受け
  金星の紫外観測(写真観測)を行っていたという。
  その際得られた画像から、4日ごとに同じ模様が現れる
  ということに気づき、その後も継続的に観測を行った結果、
  「地球の自転と逆方向に4日で回転する金星外層の雲について」
  との論文を天文誌に発表したのである。
  だが1962年には、地上のレーダー観測で金星の自転速度が
  非常に遅いということが知られていたため、
  1周4日という高速の流れなどあり得ない、誤りだと
  著名な研究者から否定され無視されることになったという。
  (この話は以前NHK科学番組でも取り上げられた)
  このエピソードが示すように、スーパーローテーションは、
  普通では考えられない常識破りの現象だったのである。
*(注)もともと金星大気の流れはスイカの縦縞模様のような、
  昼側から夜側へ向かう夜昼間対流になると考えられていた。
  昼側で温められ上昇した大気が夜側で冷やされ下降、
  再び昼側に戻りそこでまた上昇、というような循環である。
  金星では、公転(225日)と自転(243日)との関係で
  太陽が1周するのに117日かかり昼夜が非常に長く続く。
  そのため昼側で温められ、夜側へ向かうといった流れが
  長時間安定して保持されると考えられていた。
*(注)地球にも金星のような自転方向に向かう高速風はある。
  中緯度上層に吹く秒速数十mの速さの偏西風である。
  (地球大気の流れは複雑、西風や貿易風といった東風もある)
  日本では耳慣れたジェット気流は最大秒速100mにもなる。
  この高速の風は、赤道での運動量が保存されたまま移送され
  速度が早まっているとされるのだが、 それでも赤道付近での 
  自転速度460m/秒と比べるとはるかに遅い。
  金星のスーパーローテーションが如何に突出しているのが分かる。

〇なぜ起こる?スーパーローテーション
  地球大気のグローバルな流れの要因は2つに大別できる。
一つは地球の自転で引き起こされる流れ、
一つは極・赤道の太陽から受ける熱量の差による流れである。
自転により横方向の流れが生じ、赤道~極の温度差で縦方向に
循環する流れが生じる。縦方向の流れは自転の影響で東西に
向きを変えられ、そこに季節変化や大陸や海といった要素が加わり
我々が知る複雑な大気の流れとなっている。
  これに対し金星は、
・90気圧もの濃密な二酸化炭素の大気
・温室効果による500度もの高温
・100日以上も続く長い昼と夜
・地球の200分の1もの超低速の自転
・惑星全体を覆う太陽熱をほとんど吸収する上層雲
・まっすぐ立った自転軸~季節変化がない
・温度差のほとんどない極と赤道域
・カラカラの大気、海もない、等々、全く異なる世界である。
これから見えてくるものは、
濃密大気の持つ角運動量や熱容量からは、
遅い自転でも大気の流れには大きく影響するだろうこと。
温度の均一性(地形的にも)からは、
極~赤道間での何らかの熱輸送システムがあるだろうこと。
そして調整システム(海がない)や季節の欠如からは
地球よりは単純な流れになりそうであること。などである。
これらの要素が金星大気の流れにどのように関わるのか?
そこにスーパーローテーション理解の糸口があるように見える。
  スーパーローテーションのメカニズムについては以下のような説がある。
①ハドレー循環説
  ハドレー循環とは赤道~極の温度差により生じる流れで
(地球上でも見られる)赤道域で上昇、中高緯度で下降する。
このハドレー循環による角運動量の輸送と、
大気中に生じる南北方向への波や乱流との相互作用により
赤道上空の大気に角運動量が伝わり加速するというものである。
地球大気の大循環にも通じる考えで以前は有力視されていたが
金星大気の子午面循環がゆっくりしていることなどから
赤道~極の温度差が小さいということが分かり、
これだけでは加速するには足りないと最近では否定的だという。
②熱潮汐波説
  強烈な太陽光は金星上層の雲層を周期的に加熱している。
このとき生じる熱潮汐波が上下に伝わって角運動量を輸送、
これにより雲層付近の大気が加速されるというものである。
前記のように金星上層には厚い雲層があり、
太陽からの熱のほとんどは(8割近く)そこで吸収される。
ここで雲が加熱され上昇した場合、密度・温度の変化により
復元力が働き下降、結果、雲は上下に振動することになり
これが上下方向への熱潮汐波として伝搬していく。
このとき太陽の動きの方向は自転とは逆方向なので、
~金星の公転速度>金星の自転速度~
雲からは自転の逆方向のエネルギーが失われることになり
それが結果として雲速を早めるように働くとするものである。
③大気重力波説
  低高度大気中で励起され上方に伝播する波(大気重力波)が
角運動量を運び上層大気を加速するというもの。
遅い自転速度とは言え地表は90気圧もの濃密な大気である。
角運動量は大きくそれが希薄な上層大気に運ばれることにより
はるかに速度を増すことができるようになるという。

〇あかつきの観測
  スーパーローテーションの解明には、惑星を覆う雲の奥底を見通し
その動きの詳細をとらえる必要がある。
可視光では表層しか見ることができないが、赤外光の一部は
~波長域1000nm、1700nm、2300nmなど~
雲を通し漏れ出ており、これを使えば内部の様子を知ることができる。
  あかつきは、雲の温度を測る中間赤外域カメラや、
下層の雲を見る赤外カメラなど、複数の波長域のカメラを搭載。
金星大気の温度分布や異なる高度での雲の流れを観測し、
その水平・垂直構造の時間変化など3次元的な動きの詳細を
とらえることに成功。その解析をもとに、熱潮汐波が低緯度での
大気の加速を起こしていると示したのである。
またこれまで候補に考えられていた熱潮汐波以外の波や乱流は
赤道付近ではむしろ逆に作用しているということも明らかにし
主な原因は熱潮汐波であると結論づけている。
(中緯度において熱潮汐波以外の波が重要な役割を果たすという)
*(注)あかつきサイトによれば、太陽光があたる赤道から極域に向け
  ゆっくり流れる子午面循環があり、赤道の角運動量を持ち去り
  スーパーローテーションを弱めるよう働くが、
  逆に極域から赤道へと向かう熱潮汐波が角運動量を赤道へと運び
  スーパーローテーションを強めるように働くという。
  また熱潮汐波は垂直方向への伝搬でもやはりプラス方向に働き
  スーパーローテーションを加速、維持する役目を担うという。

〇おわりに
  このように金星のスーパーローテーション問題は解明されたのだが
ただこの話、実は金星だけでは終わらない。
高速の大気の流れは木星や土星・海王星などでも知られ、
また土星の衛星タイタンでもスーパーローテーションが観測されている。
更には系外惑星の世界でも、自公一致で常に片面だけ中心星に
向けているようなものも発見され、金星と条件が似かよっている。
これらは惑星気象学として、地球含めすべての惑星系にも関わる
話となっている。天体ごと、どのような条件でどのような流れとなるか
それらが解明されれば地球気象学の進展にも役立ちそうである。
あかつきの観測は続いている。更なる成果に期待したい。

 ◎太陽観測衛星

   太陽活動はまだ低迷している。
2020年の春前後からは次の新しい活動周期サイクル25がスタートし
活動が上昇に転じるのではないかと予想されていたが、
最近になり、ようやくその兆しが見え始めている。
これに合わせるかのように2020年2月10日、欧州宇宙機関(ESA)の
太陽観測衛星ソーラーオービター(Solar Orbiter)が
米カリフォルニア州ケープカナベラル基地から打ち上げられた。
衛星は2022年に太陽に到達、軌道傾角の大きな楕円軌道で周回し
かなり近距離から太陽の極域を観測する。
最接近時の距離は4200万キロ、水星の5800万キロよりも太陽に近く
衛星は非常な高熱と猛烈な太陽風に曝されることになるが、
これまでの衛星では十分捉えることができなかった極付近の様子を
詳しく見ることができるためその成果が期待されている
  太陽は最も身近な天体である。しかしそれでも未知の部分は多い。
その謎を探るため半世紀も前から多数の太陽観測衛星が打ち上げられ、
光、X線、電波など様々な波長域で探査が行われてきた。
今もHINODE、Parker solar grobe、Solar dynamics observatoryほか
多くの観測衛星が太陽とその周辺空間を監視し続けているが、
ここに新たに参戦するSolar orbiterが、太陽極域のどんな姿を
見せてくれるのか楽しみである。

〇Solar orbiter計画
  この計画は、ESA Cosmic Vision 2015-2025プログラム
~惑星と生命、太陽系、宇宙の起源、宇宙の物理といった問題を扱う~
中規模ミッションの1番目の計画M1として、M2のユークリッドとあわせ
2011年に選択されたものである。
・中規模ミッション全体は
  M1 Solar Orbiter     太陽観測衛星
  M2 Euclid ユークリッド ダークマター・ダークエネルギー観測衛星
  M3 PLATO  プラトー   系外惑星探査計画
  M4 ARIEL  アリエル   系外惑星大気観測衛星
  M5 3候補/2019年時点   赤外線天文衛星SPICA・金星探査機EnVision
              ・突発天体観測衛星Theseus 
  ESAによれば、Solar orbiter計画の主要な概念は、今から30年ほど前、
1988年にスペイン領カナリア諸島のテネリフェ島で行われた会議レポート
「A Crossroads For European Solar and Heliospheric Physics」
~ヨーロッパの太陽物理と太陽圏物理の岐路(交差点)がもとだという。
これはそれまでの探査機ユリシーズ、SOHOなどの成果を踏まえ、
新たな太陽探査への考えを示したもので、
高緯度からの可視・紫外域での観測や、近距離からの高解像度画像の
取得のアイディアなどが提案されている。
1999年には、この2つを組み合わせるための調査チームが編成され、
技術的課題の調整が行われ、ようやく1つのミッションとして
今回スタートすることとなったのである。

 M1 Solar orbiter計画概要は以下のようになっている。
*目的
  太陽とその極域、内部太陽圏の高解像度観測を行うことで、
  太陽がどのように太陽圏を作り、それを駆動制御しているかを解明、
  太陽活動の予測にも役立てる。
*サイエンス
  ・太陽風の駆動メカニズム、コロナ磁場の発生領域を探る。
  ・太陽活動による太陽圏の変動メカニズムを探る。
  ・太陽フレアによる高エネルギー粒子放射のメカニズムを探る。
  ・太陽ダイナモの働きと、太陽圏とのつながりを探る。
*スケジュール
  ・2020年02月 NASAのAtlas V411ロケットによる打ち上げ
  ・2020年12月 金星フライバイ1 
  ・2021年02月 最初の太陽接近0.5AU以内(太陽~地球距離の半分)
  ・2021年08月 金星フライバイ2
  ・2021年11月 地球フライバイ→メインミッション開始
         内部太陽圏観測
  ・2022年09月 金星フライバイ3
  ・2022年10月 太陽接近0.3AU以内
          近日点0.26AU、遠日点0.91AU、公転周期180日~ 
  ・2025年02月 金星フライバイ4
  ・2025年03月 17度polar passスタート 軌道傾斜>17度
          高緯度からの極域クローズアップ観測
  ・2026年12月 金星フライバイ5→拡張ミッション開始
  ・2027年01月 24度polar passスタート 軌道傾斜>24度
  ・2028年03月 金星フライバイ6
  ・2028年04月 30度polar passスタート 軌道傾斜>30度
  ・2029年06月 金星フライバイ7
  ・2029年07月 33度polar passスタート 軌道傾斜>33度

・Solar orbiterによる探査は最大10年に及ぶ長丁場となる。
上記スケジュールを見ると・・
打ち上げ後、衛星は金星を追う形で飛行、太陽を2周回して
2020年12月に金星に追いつく。ここで1回目の金星フライバイ、
近日点0.5AUの楕円軌道に入り飛行。2021年2月、0.5AUまで
太陽に最接近した後、2021年8月再び金星と遭遇、
ここで第2回目の金星フライバイを行い地球に向かい、
2021年11月地球に到達。ここで地球フライバイを行って
近日点0.32AU太陽接近コースをとり、ここから4年にわたる
ミッションがスタートする。
2022年9月、衛星は金星と遭遇、第3の金星フライバイを行い
近日点0.28AUの太陽接近コースに入り同年10月、太陽に最接近。
データ取得とリモートセンシング観測の校正など行い、
以降この太陽周回軌道で約180日ごと5周回ほど太陽に最接近し
内部太陽圏の探査を進めていく。
2025年2月、金星と遭遇。ここで第4の金星フライバイを行い
軌道角度を17度に上げたコースに移る。そして翌3月、
第1回目のpolar pass、ここから太陽極域の探査が始まる。
主ミッションでは、この17度軌道で4周ほど太陽を周回、
最接近ごと近距離での極域高解像度観測を行うことになる。
以上がSolar orbiter計画メインミッションである。
  継続される場合、2026年末から拡張ミッションスタート。、
2026年12月の金星との遭遇を利用しフライバイ、軌道角度
24度の更に高緯度軌道からの探査へと進んでいく。

・ここで注意しておきたいのは衛星と金星の関係である。
上記のように衛星はコース上で何度か金星と遭遇することになる。
これは衛星の動きと金星の動きとが共鳴するようにコースが
とられているからで、衛星が太陽を何回か周回するとちょうど
そこに金星がやってくるというようになっている。
ここで金星の引力を利用しフライバイを行えば燃料や時間を
ロスすることなく速度や軌道を変えることができるわけで、
上記の2022年9月金星フライバイも、ESAによれば5:4の共振で
両者が出合い太陽最接近コースをとるようにしているという。
  軌道角度の増加も同様。打ち上げ時のSolar orbiterは
黄道面に沿った軌道をとることになる。その過程で金星との
遭遇の都度(第4~7金星フライバイ)金星の重力を利用、
段階的に起動の傾きを増やしていく。

〇Solar orbiterの探査
  Solar orbiterのターゲットは大きく2つある。
1.太陽本体:極域の可視&紫外光による高解像度観測
2.太陽周辺:内部太陽圏の高エネルギー粒子、磁力線、プラズマ観測
ここで、極域が注目されているのは単に地球からは見えにくい
ということからだけではない。極域の状況は太陽全体の
活動度に大きな影響を及ぼすと考えられているからである。
  日食時に見る太陽コロナは、極域から外部へと伸びる流線が
羽毛のようなディティールを見せ、如何にも磁力線の根元が
極域にあるという様子が伺われる。
太陽活動極小期には、この極域に大きなコロナホールが広がり
開いた磁力線に沿って高速の太陽風が吹き出している。
太陽活動の進展とともに極磁場は変動、極大期にはゼロとなり
以降、両極の極性が反転する。コロナホールも見えなくなり
全方位に広がったコロナが現れることになる。
極大を過ぎ活動度が下がるにつれ、極磁場は逆に強度を増し、
それがピークに達したころ、太陽活動は極小を迎え
次の新しい活動サイクルが始まることになる。
この新サイクルに現れる黒点群は、極域の磁場反転を反映、
前サイクルとは正反対の磁場構造を持つようになっている。
  このように極磁場の変動と太陽活動には密接な関係性が
見られ、極域観測が如何に有用かがよく分かる。
  磁力線の湧き出し口のある極域には、どのような強度や規模の
磁場領域があるのか、それはどのように分布しているのか?
太陽活動の変動とともにどのような変化を見せているのか?
また極域磁場がどのように太陽風と関わっているのか?、
Solar orbiter搭載の極紫外線イメージャによる
可視~極紫外域での太陽極域の長期にわたる高解像度観測、
またマグネトメーターによる磁場観測、
コロナグラフ・分光装置による太陽コロナ観測
偏光日震イメージャによる太陽内部診断等々、これらは
太陽活動の周期性への理解や次期サイクル25太陽活動を
予測する上でも貴重な知見を与えてくれるだろう。

*Solar orbiterによる探査は、先行する太陽観測衛星と
密接に関連し、各々相補的なデータが得られることになる。
太陽・太陽圏の全体像把握には大きな力となるだろう。
そんな好例が以下
・観測衛星による太陽極域の高解像度観測には前例がある。 
(黄道面からの観測であり極域を斜めから見る形だったが)
2007年、日本の観測衛星HINODEは極域の高解像度観測を行い
重要な発見をしている。それまで太陽極域は数ガウス程度の
弱い磁場で埋め尽くされていると思われていたのだが、
1000ガウスと黒点ほどの強さの磁場斑点が点在しているのを発見。
  /寿命10時間、大きさは平均的黒点の10分の1
  /黒点のようにNSペアではなく、南北両極ごと単極斑として点在
これにより、それまで説明がつかなかった、極磁場数ガウスでは
1活動期間中の黒点を作るだけの磁場が足りないという問題や、
太陽風の加速メカニズム問題について解決の緒となり
太陽極域観測の有用性をあらためて認識させられたのである。
~関連し次期HINODE(Solar-C)では、黄道面から60度離れた場所から
太陽極域を観測、太陽内部診断と太陽ダイナモ機構の解明を目指す
という案も候補として検討されていたのだが・・。

・太陽に近接する探査にはParker solar probe(NASA)がある。
太陽コロナと太陽風探査のため2018年に打ち上げられたもので
探査期間は2025年まで。太陽への大接近(フライバイ)を24回行い
外部コロナなどの探査を行うことになっている。
その最初の観測成果が2019年12月Nature 576,778の6に掲載。
太陽風に伴う磁場の方向が急激かつ大規模に逆転すること、
太陽風の荷電粒子が太陽の自転と共回転していることなど
4本の論文が発表されている。
  Solar orbiterの内部太陽圏探査は接近距離は及ばないものの
黄道面から最大33度(拡張ミッション)の領域から観測でき
太陽風の3次元的な理解への一歩となることが期待できる。

〇Solar orbiterの熱対策
  Parker solar grobeほどは太陽に近づかないが、それでも
太陽まで最大4200万km側まで近づくSolar orbiterでは
やはり防熱対策が非常に重要となる。
この距離での太陽光の強さは地球で受ける強度のおよそ13倍、
非常な高熱に曝されることになる。
Solar orbiterより外側を回る水星でも昼間の地表温度は400度C、
衛星本体の表面温度は500度にもなるはずである。
  Solar orbiterは常に太陽を向くように飛行する。
そのため太陽側、衛星前面には熱シールドが取り付けられている。
ちょうど日傘のイメージで、影の隙間から太陽を覗き見るという
わけである。
この熱シールドは、ESAが水星探査機BepiColomboのため
何年もかけ開発した技術を利用、
アルミのハニカム構造の躯体に熱反射率の高いチタン薄膜を貼り、
熱伝導を防ぐため幾層にもはさみこんだもので、520度の高温にも
耐えられるという。
更に機器自身が発する熱を宇宙に逃がすラジエーターパネルも設置、
こうして太陽から受ける熱、内部熱源、極寒の宇宙環境という
3つの熱バランスをとり内部機器を保護しているのである。

〇おわりに
  地球から太陽の極域を見ようとしてもわずかしか見えない。
黄道面に対する太陽自転軸の傾きは7度、ほぼ真っすぐ立って
正面を向いているような形なので、上下(北極・南極)は
かなり斜めから眺めることになるからである。
両極が一番見やすいのは、地球から見る太陽の自転軸が手前か
奥向きとなるときで、南極を見る場合は2月下旬から3月下旬、
北極側を見るには8月下旬から9月下旬となる。